景気を測る指標としては国内総生産(GDP)が最も知られており、公表されるとニュースで大きく取り上げられる。GDPは国内で生産されたあらゆる種類の財・サービスをカバーしており、まさに一国の経済活動を測るための最も優れた経済指標といえる。
しかし政府をはじめとして時々刻々と変化する景気の動きを追う者は、GDPより鉱工業生産指数の動きに注目することが多い。「鉱工業生産指数」は、あまり馴染みのない指標である。公表されれば新聞には出るが、その扱いは地味以外のなにものでもない。そのような地味な経済指標であるが、景気判断を仕事とする者が、景気を判断する上で最も注目する指標のひとつである。
景気を判断するうえで鉱工業生産指数が注目される理由としては、毎月公表される速報性のある指標であることに加え、景気の動きに敏感なことが挙げられる。GDPは3カ月に1度しか公表されず、毎月変動する景気の動きを追うために十分な公表頻度とはいえない。一方、鉱工業生産指数は毎月公表されるうえ、翌月末に公表され速報性に優れている。また鉱工業生産指数は、主に製造業しかカバーしていない。しかし、製造業は景気が良くなると生産が大きく増え、景気が悪くなると生産が大きく減るなど、景気に対して敏感であり、景気の状況にかかわらず生産があまり変化しないサービス業とは大きな違いがある。よって鉱工業生産指数は、製造業に特化した指標であるがゆえに景気に敏感なのである。
さて日本では、この鉱工業生産指数は景気の動きを追う者にとって重要な経済指標であるが、韓国でも同じ名称であり、中身も日本の鉱工業生産指数とまったく同じ経済指標がある。そして韓国でも景気の動きを把握するうえで最も有用な経済指標と考えて差支えがない。
そこで、今回はこの鉱工業生産指数で最新の韓国の景気の状況を判断してみよう。
「3カ月移動平均」で読む
まず、去る5月31日に公表された最新値である2021年4月の鉱工業生産指数(季節調整値。以下、同じ)の前月比はマイナス1.6%であり、3月はマイナス0.9%であったため2カ月連続のマイナスとなった。鉱工業生産指数の前月比がプラスであれば景気は上向いており、マイナスであれば景気は下向いていると考えられる。よって2カ月連続でマイナスということは景気が後退しているかもしれないと考えることもできる。
ただし鉱工業生産指数に限らないが、経済指標が滑らかに動くことはそれほど多くなく、毎月の振れが観測されることが多い。何らかの要因で、たまたまある月に生産が多いとその翌月は反動でマイナスになることもある。よって経済指標をみる際にはトレンドを把握することが大切である。
経済指標のトレンドをつかむ一つの方法が、3カ月移動平均をとる方法である。3カ月移動平均とは、当該月、当該月の前の月、さらにその前の月の3カ月の数値を合計して3で割ることで算出される。2021年6月であれば、2021年6月、5月、4月の数値の合計を3で割った数値となる。3カ月移動平均の利点は、ある月にたまたま数値が高くなっても、その影響が薄められることから、トレンドを把握することができることにある。
鉱工業生産指数の毎月の数値と3カ月移動平均を図で示したが、これからみると2021年3月と4月は確かに減少しているが、これはたまたま2月に数値が大きく増加したために生じたものであり、3カ月移動平均は3月も4月も順調に増加していることがわかる。数値でも確認してみよう。3カ月移動平均の前月比は、2021年4月が0.6%、その前の3月が0.7%であり、直近2カ月は増加が続いている。よって鉱工業生産指数は傾向として現在もプラスが続いており、韓国の景気は上向いていると判断することができる。
図から少し長い目で鉱工業生産指数の動きをみると、2020年2月から6月までは傾向として減少しており、その後は増加に転じている。よって鉱工業生産指数から判断する韓国の景気は、コロナ禍で一時的に悪化したものの、昨年の夏頃から回復し、現在においても景気は良いと判断できる。コロナ禍は一時的に韓国の景気を悪くしたが、現在は韓国の景気は着実に回復しているといえよう。
(文=高安雄一/大東文化大学教授)