「個食」に重宝する外食チェーン厳選…吉野家・焼肉の和民、訪問してわかった優れた点
10都道府県に発出されていた緊急事態宣言が沖縄県を除く9都道府県で解除されたが、新型コロナウイルスの感染状況にかかわらず東京オリンピックを開催する政府に対して、多くの飲食店から恨み節も聞こえる。不要不急という、具体的な物差しを伴わない外出自粛要請は、飲食店だけでなく、多くの国民に深い亀裂を招いている。
5月25日、日本フードサービス協会は以下の4月の外食産業データを発表した。
「4月は、まん延防止措置が5日から宮城県、大阪府、兵庫県に、12日から東京都、京都府、沖縄県に適用され、さらに25日 からは3回目の緊急事態宣言が東京、大阪など4都府県に発令され、宣言下地域においては酒類提供が禁止となった。当然ながら客足は鈍り、とくに飲酒業態は大打撃を被った。前年4月が動向調査史上最悪の落ち込みとなったため、今回の全体売上は対前年同月比136.7%となったが、コロナ禍前の前々年対比では80.5%にとどまり、依然としてコロナ以前より遙かに厳しい状況が続いている」
ファストフードチェーンがテイクアウトやデリバリーにより売上を維持する一方で、ファミリーレストランは依然として苦戦を強いられている。ファミレスは店内飲食以外の販売ツールを強化している。すかいらーくグループはデリバリー&テイクアウト専門の「ガスト 新中野店」を2月26日にオープンした。筆者は6月4日夕方に同店舗を訪問したが、雨模様も手伝って配達用のバイクは1台しか残っていなかった。
飲食店の営業活動が停滞すれば、生産者がつくった農水産物は行き先を失い、生産者の意欲も減退する。外食産業は食のインフラであり、外食産業を動かすことは消費者だけではなく生産者にもプラスの効果が見込める。
感染予防に積極的に取り組み、「黙食」にちょうどよい飲食チェーンが存在する。今回は、そのいくつかを紹介したいと思う。
吉野家と焼肉の和民
「個食」「黙食」の筆頭は吉野家を筆頭とする牛丼チェーン。そのほとんどの店舗は一部をのぞきカウンターがメインであり、長居する顧客は少ない。緊急事態宣言も手伝い、一時期流行っていた「吉呑み」(吉野家)もすっかり影を潜めた様子。もともと吉野家はビール3本までと上限を設けていたこともあり、客にも「長居する場所」という意識は少ない場所といえるだろう。
自宅で味わえない料理の筆頭とされる「焼肉」。油がはね、煙が立ち、そしてなによりも片付けが面倒だ。テイクアウトやデリバリーに馴染まず、やっぱり店内での食事がおすすめのメニューだ。
「焼肉の和民 大鳥居店」に6月7日に訪問した。二人席を基本に全席がパーティションで区切られている。注文した肉も席まで高速レーンで運ばれ、非接触を意識したオペレーションとなっている。焼肉の和民は、どちらかといえば配膳ロボットが働いていることが話題になっているが、この日はライバル会社の配膳ロボットも稼働しており、店員に聞くと、お試し期間とのこと。訪問した日は満席にはほど遠いが、そこそこ席が埋まっていた。一人客は私だけだったが、家族での焼肉は子供にとってかけがえのないシーンとなることであろう。
また、ソフトドリンク飲み放題も子供たちに喜ばれる。同店舗ではアルコール飲料の提供は休止していた(すでに再開)。同ビル2階にある「三代目鳥メロ」は7月11日まで休業となっている。
多くのチェーンや店舗が感染予防に努めるなか、消費者には、感染対策していない店舗を非難するのではなく、きちんと対策している店舗を正しく評価することに力を入れ、そしてその情報をSNSなどで広く共有してほしい。一人ひとりの応援は小さくても、つながることで大きな力となるからだ。
外食という食の文化を守ること、そして和食を支える生産者を応援すること。世界に誇る私たちの財産を自分たちの世代だけで享受するのではなく、次の世代に残していくためにも。
(写真・文=重盛高雄/フードアナリスト)