言い換えれば、トヨタは自動車のメーカーとしての役割に加え、電動化、コネクテッドカーなど新しいコンセプトを実現する基盤(プラットフォーム)としての機能を備えようとしている。それは、新しいクルマのコンセプトを実現するために、自前では調達が難しい要素を社外から取り入れ、自社の技術力などとの新しい結合を目指す、オープンイノベーションを重視した経営だ。
経営者の発想の転換が必要
トヨタがオープンイノベーションを重視していることを“脱・自前主義の経営”と表現する解説は多い。ただ、競争力を高めるためには、テクノロジー強化を目指す自前の取り組みが欠かせない。トヨタが目指すものは、“発想の転換”だ。
従来、自動車業界は完成車メーカーを筆頭に、他の製造業、ブレーキなどのパーツを生産する子会社や関係会社、その下請けと企業間の序列が形成されてきた。それが、自動車産業のすそ野が広いといわれる理由の一つだ。企業同士の関係のなかで、トヨタは自動車業界のトップに君臨する。下請け、孫請けはトヨタの指示に基づいて、定められた仕様の部品やパーツを設計・生産してきた。
トヨタは、従来の発想を変えようとしている。同社がサプライヤーから競争力のある部品や技術の提案を受け入れようとしていることはよい例だ。その発想に基づいて、トヨタはITなど最先端の分野からも、各企業のアイディアやテクノロジーを吸収しようとしている。そうした取り組みの結晶として、トヨタが新しい自動車を開発し、消費者の支持を集めることができれば、産業界全体にも波及効果があるだろう。新しいテクノロジーの開発を目指すだけでなく、新興国地域でのシェア拡大を目指すなど、より積極的な動きが増える可能性がある。
トヨタは、できるだけ早い段階で乗用車を中心に普及が見込まれる自動車のコンセプトをまとめ上げ、実用化を目指すべきだ。世界の自動車業界が変革を迎えるなかで同社が競争力を高めるには、新しいプロダクトを創出し、世界に変化をもたらすことを目指せばよい。そうした取り組みが進めば、トヨタとの連携を重視する企業も一段と増えるだろう。
企業が成長するためには、イノベーションが欠かせない。それは、自前での技術・テクノロジーなどの開発に留まらない。外部から成長に貢献する要因を取り込むことも大切だ。そのためにトヨタは、組織の変革も進めている。トヨタと他企業の連携が進むにつれ、より積極的に従来にはないモノやサービスの創造を目指すダイナミックな企業経営の発想が増えることも期待される。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)