いよいよ夏本番。クールビズでネクタイを締めなくていいのはありがたいが、それでも暑さにまつわる問題はあとを絶たない。
特に多くのビジネスパーソンを悩ませるのは、汗の問題だろう。汗だくな姿や脇に汗染みができている状態で大事な取引先を訪問することなど、なんとしても避けたいところだ。また、近年はスメルハラスメント、いわゆるスメハラが広く認知されてきたこともあり、自分が汗臭くないか、デオドラント対策ができているかを常に不安に思っている方も多いのではないか。
とはいえ、汗をかくこと自体は悪いものではない。スポーツで流す汗は心地いいし、昼間にかいた汗の量に比例して夜のビールも美味しくなる。何か上手に汗をかく方法はないものだろうか。
そこで今回、ワキガ、体臭、多汗の治療を行う五味クリニックの院長で、『ビジネスマン流 汗とにおい対策Q&A』(ユナイテッド・ブックス)など多くの著書を持つ五味常明氏に、さわやかな汗をかくための方法や、今日からすぐにできる汗対策について聞いた。
健康効果の高いサラサラ汗は「有酸素運動」と「設定温度27℃」がカギ
まず「汗対策をするうえで一番大事なのは、サラサラ汗をかけるようになること」と五味氏は語る。
「汗というものは、実は血液からつくり出されているのです。血中の液体成分である血しょうを汗腺でくみ取り、ミネラルなどのさまざまな成分を濾過して血中に戻した後、水分のみを排出したものが汗です。そしてこのとき、濾過が滞りなく行われて、限りなく水に近くなったものをサラサラ汗と呼びます。汗は気化することで体温を下げるためにつくられるわけですが、サラサラ汗は小粒なので蒸発の効率がよく、体重70kgの人であれば、ほんの100㏄程度の発汗量で体温を1℃下げられます。また、成分もほとんど水であるため、臭いはほぼしません。
反対に濾過があまりうまくいかず、さまざまな成分の混じった汗をベタベタ汗と呼びます。ベタベタ汗は固まって大粒になりやすいので蒸発の効率が悪く、どうしても発汗量が多くなってしまいます。そして血中の老廃物などが残っていることが多いので、特有の臭いもしてきます」(五味氏)
つまり不純物の少ないサラサラ汗をかける体になれば、結果的に発汗量自体も少なくなるうえ汗臭さも解消される、ということか。また、サラサラ汗をかけるようになれば、それだけで健康効果も高いと五味氏は続ける。
「サラサラ汗をかけば体温調整がスムーズに行われるので、その分血行がよくなります。すると血液が体内を循環するスピードも早くなるので、一日の間に腎臓を通る回数も多くなります。人間は腎臓で血中の老廃物を濾過しているので、腎臓を通る回数が増えれば増えるほど血液はキレイになるのです。
また、血行がよくなれば全身に酸素が巡り代謝もよくなります。人間は代謝がよくなると体温が上がるのですが、体温が上がることでさらに代謝がよくなる性質も持っています。つまり体温が上がった分代謝もよくなり、その分また体温が上がる……というループが生まれるわけですが、サラサラ汗をかける人は、サラサラ汗でうまく体温を下げながら代謝をよくしていくことができるのです。
反対にベタベタ汗をかく人の場合は、うまく体温を下げられないため、代謝を抑えることで体温の上昇を防ごうとしてしまうのです。代謝を抑えると細胞のエネルギーである酸素の消費量も減るため、酸素を運ぶ血液の流れも滞ってしまい、同時に血中の老廃物の量も多くなってしまいます。
一般的に汗をかいて老廃物を出すことをデトックスと呼んでいますが、そもそも汗は体温を下げるためのものであって、尿のように老廃物を排出するためのものではありません。確かにベタベタ汗の中にはアンモニアや乳酸といった老廃物も含まれていますが、それは結果的にデトックスになっているだけ。本当のデトックスとは、サラサラ汗体質になることで代謝と血行をよくしながら、腎臓を使って老廃物を排出していくことでなされるのです」(同)
それでは、サラサラ汗をかく体をつくるためには、何をすればよいのだろうか。
「汗腺も筋肉と同じように、使わなければ衰えてしまいます。ですから普段から適度に汗をかくことが汗腺のトレーニングになるというわけです。そして、一番有効なのが有酸素運動。というのも体の芯から熱が生まれてくる有酸素運動なら、汗をゆっくりじっくりかけるので、汗腺のトレーニングとして最適なのです。体の芯から温めるという意味では岩盤浴も効果的ですね。
そして、もうひとつのポイントはエアコンの設定温度です。エアコンの設定温度を23℃くらいにしている人も多いかと思いますが、23℃で汗をかける人間はいません。ですから設定温度はもっと高めがいいのです。とはいえ急に温度を上げて熱中症になっては元も子もないので、1℃ずつ設定温度を上げていくことで、無理せず徐々に体を慣れさせていきましょう。その際、窓を開けて換気をしたり、扇風機を併用することで空気の流れをつくり、汗を乾きやすいようにすると効果的です。最終的に28℃まで上げられれば理想的なのですが、現代人ですと28℃では耐えられない人も多いので、その場合は27℃でも大丈夫です。いずれにしても適度に汗をかきながら過ごせる体づくりを行えば、それだけで十分なトレーニングになります」(同)
速乾吸湿性抜群の下着はマスト、意外と知らない正しい汗の拭き方は?
サラサラ汗をかける体づくりは一朝一夕でできるものではない。だが、今日からでもすぐにできる汗対策が必要だ、という方もいることだろう。
「まずは下着を速乾吸湿性の優れたものに変えましょう。ユニクロやイオンなどから速乾吸湿性を謳った製品が販売されていますが、そのような製品は吸湿性の高い綿を内側、速乾性の高いポリエステルなどの合成繊維を外側になるよう組み合わせてあります。それを着れば、汗をすぐに吸い取って蒸発させてしまえるので臭いが残りにくいですし、何より不快感がありません。ビジネスパーソンが夏を乗り越えるためには、これらの速乾吸湿性の高い下着が必要不可欠といっていいでしょう。
また、正しい汗の拭き方も覚えておくべきです。汗を全部拭きとってしまえば蒸発して体温を下げることはできないので、拭いても拭いても汗が噴き出てくる、というのは当然のことなのです。流れ落ちるような汗は拭きとってしまっても問題ありませんが、全部ふき取るのではなく、肌がちょっと湿っているくらいでとどめるようにしましょう。
そして営業の外回りから帰ってきたときや取引先の人と会う直前など、完全に汗を拭き取りたいときには、濡らしたタオルやハンカチで拭きましょう。臭いの素になる雑菌を拭き取ることができるので、汗臭さを残さず汗を拭き取れます。
あとは、小さなことですが、建物から出ていく際、涼しい屋内からいきなり炎天下に出ては汗が噴き出してしまうので、一旦玄関先のような温度的な中間地点で2、3分待機して、暑さに体を慣らしてから外出すると、それだけでも効果はありますよ」(同)
最後に、デオドラント剤を使用するときの注意点と、寝汗による寝苦しさを解消できる方法について教えてもらった。
「制汗作用の入ったデオドラント剤を使用するときは、汗のこもる脇と足以外には絶対使ってはいけません。制汗剤を使用した部位は汗をかけなくなるので、胸や腕にかけてしまうと、熱中症になってしまう可能性も出てきます。脇と足以外の部位をスッキリさせたいときは、エタノールを含んだウェットティッシュやボディペーパーを使用してください。エタノールは揮発性なので、汗と同じように体温を下げる役割を担ってくれます。
そして、夏の敷布団は固めにしましょう。人体には圧迫された部位の発汗が抑えられるかわり、その分反対側の部位から汗が出てくる『半側発汗』という現象があります。柔らかい敷布団だと背中が蒸れて寝苦しいと感じられる夜も、固めの敷布団を使っていれば、半側発汗により背中は汗をかかず、胸側から汗を放出できるので快適に眠ることができるでしょう」(同)
今回教えてもらった汗対策をうまく活用しつつ、同時にサラサラ汗をかける体づくりを心掛ければ、今夏の猛暑も気持ちのいい爽やかさだと感じることができるようになるかもしれない。
(文・取材=A4studio)