超優良企業ファナックの株価が暴落。6月20日には一時2万1635円まで下げ、年初来安値を更新した。1月16日の年初来高値3万3450円から、6月20日の安値までの下落率は35.4%、下落幅にして1万1815円の下げ。株式時価総額が2兆3000億円消えた計算になる。
ファナック株が下洛したのは、投資判断と目標株価を引き下げた証券会社が相次いだことによる。
SMBC日興証券は5月31日、目標株価を2万2000円から1万8000円に引き下げた。UBS証券は6月1日、投資判断を3段階で最上位の「バイ(買い)」から最下位の「セル(売り)」に一気に2段階格下げ、目標株価を3万4000円から1万9000円に下方修正した。クレディ・スイス証券も6日、投資判断をそれまでの「ニュートラル(中立)」から「アンダーパフォーム(弱気)」に格下げし、目標株価を2万9000円から1万7000円にした。
証券各社が投資判断と目標株価を引き下げたことが嫌気され、ファナック株が売り叩かれた。
2019年3月期は一転して大幅減益の見通し
自動車や電子機器などの機械部品や金型を作る工作機械は、機械をつくる機械という意味でマザーマシンと呼ばれる。日本の工作機械産業は自動車メーカーの苛酷な要求に応えるかたちで発展してきた。
ファナックは工作機械の頭脳部分のNC(数値制御)装置で世界首位、50%のシェアを持つ。産業用ロボットでも世界のトップシェアだ。自動車メーカー向けの溶接ロボットに強みを持つ。
ファナックの2018年3月期連結決算の売上高は、前期比35.3%増の7265億円、営業利益は同49.9%増の2296億円、純利益は同42.5%増の1819億円だった。欧米や中国向けに産業用ロボットが伸び、ドル箱のNC装置も好調だった。
売上高営業利益率は31.6%に上る。たとえば、トヨタ自動車の18年3月期のそれは8.2%。営業利益率15%以上の企業は“エクセレントカンパニー”と呼ばれるが、ファナックの収益力の高さは突出している。そんな屈指の超優良企業であるファナックの投資判断を、なぜ証券各社は引き下げたのか。
それは、19年3月期連結決算の見通しが衝撃的だったからだ。売上高は18年同期比12.7%減の6342億円、営業利益は同33.9%減の1517億円、純利益は同24.3%減の1377億円と大幅な減収減益の見通しを明らかにした。IT関連企業の需要の落ち込みを考慮したものだ。
19年3月期の営業利益の市場予想の平均(市場コンセンサス)は約2530億円。会社側の予想(1517億円)は、これを大きく下回った。そのため、市場関係者を“ファナック・ショック”が襲った。
クレディ・スイス証券のレポートは、「12年3月期以降、同社業績はiPhoneの投資サイクルが影響し、増益決算後に2期連続で減益基調が続く傾向がある。現在、株価には割高感が残るうえ、20年3月期もロボドリル需要の低迷に加え、工作機械受注の減少が懸念される」などと指摘。19年3月期の営業利益の予想を従来の2600億円から1650億円(会社予想は1517億円)に下方修正し、ROIC(投下資本利益率)モデルで1万7000円という新しい目標株価を提示した。
ファナックは情報開示に消極的で、アナリスト泣かせのリーディングカンパニーとして知られている。
前期も期初には減益予想だったが、その後、3度も上方修正した。仮に増益予想から3度も下方修正したら株価の暴落の原因になるが、上方修正であれば市場関係者はオーライだ。「今期も、状況を見極めて上方修正を連発するのではないか」などと強気な見方をするアナリストも少数派ながらいる。
今後もファナックとアナリストの虚々実々の駆け引きが繰り広げられることになりそうだ。そのたびに株価は上下に大きく振れることになる。
(文=編集部)