6月9日。静岡県島田市の大井川鐵道新金谷駅で2018年の「きかんしゃトーマス号」出発式が開催され、定刻の10時38分、今年の「きかんしゃトーマス号」の1番列車が千頭駅へ向けて発車した。
大井川鐵道は、これから週末と夏休み期間を中心に10月14日までののべ72日間、新金谷~千頭間に144本の「きかんしゃトーマス号」の運転を予定している。
イギリスにある架空の島ソドー島を舞台に、その島の鉄道で働く、感情を備えるきかんしゃトーマスたちの活躍を描いたおとぎ話は、イギリスの牧師ウィルバート・オードリーによって編み出された。
この物語は、やがて絵本として出版され、さらに人形劇、アニメとしてテレビ放送されるに至った。日本でも、1990年にはテレビに登場し、勇気と友情の大切さを訴えたストーリーは瞬く間に高い人気を獲得した。
日本で初めて蒸気機関車の「動態保存」に成功
この物語を、日本の実際に運転されている鉄道で再現しようというプロジェクトがスタートしたのは、2013年12月のことだった。プロジェクトは、「きかんしゃトーマスとなかまたち」の日本での使用権を保有しているソニー・クリエイティブプロダクツと、日本で蒸気機関車の保存運転に確固たる実績を持つ大井川鐵道がコラボレーションするかたちで進められた。
日本での人気が定着している「きかんしゃトーマス」と、夏休み期間を中心とした繁忙期に新しい話題を求めていた大井川鐵道の思いが合致した格好となった。
「これまでにも当社では、『きかんしゃトーマス』をテーマにしたフェアをスポット的に開催して好評をいただいてきました。そして、2014年からの本線上での運転となったわけですが、これには今まで当社にいらっしゃったことのないお客様たち、あるいはこれまでとは異なった年齢層のお客様たちを誘致したいという考えがあり、そのためのプランは以前から検討を続けていたのです。そのような経緯でプロジェクトがスタートしました」
大井川鐵道経営企画室広報担当の山本豊福さんは、プロジェクトスタートのいきさつをそう語る。
大井川鐵道では、これまで蒸気機関車の動態保存運転を積極的に手掛けてきた。1976年7月9日には、全国で初めて蒸気機関車の動態保存運転を開始。「動態保存」とは、機関車を実際に動ける状態で保存するもので、実際の運転は行わず、公園、施設の庭などで展示する「静態保存」よりもはるかに大きなコストや技術が要求される。
国鉄(現在のJR)や大手私鉄と比較すれば経営規模が小さい大井川鐵道が日本で初めて本格的な動態保存運転を行ったことは画期的で、大井川鐵道での蒸気機関車保存運転の成功が、のちの「SLやまぐち号」や、現在は各地で行われている蒸気機関車動態保存運転の引き金となったことは疑う余地がない。
大井川鐵道で蒸気機関車の保存運転が成功すると、全国から視察が訪れるようになった。「ぜひ、我が町の鉄道でもSLを運転し、地域を活性化させよう」というわけである。しかし、視察によって運転が実現した例は極めて少なかった。蒸気機関車を復活させるといっても、それには機関車の整備費用、要員と運転が可能な線路の確保など、大きな手間と費用がかかる。単に機関車を動かすだけでは黒字を計上するのは難しいということが理解されたためであった。