4月5日、ガラケー時代のゲーム『探検ドリランド』などで一躍名を馳せていたグリーは、100%出資の子会社Wright Flyer Live Entertainmentの設立を発表。100億円を投資して、バーチャルYouTuber市場に参入することを決定したという。
かつてはケータイゲームの雄として業界を牽引したグリーだが、2012年以降は業績も低迷を続けており、2012年6月期には1582億だった売上高も、18年6月期は589億円に激減。実に最盛期の3分の1となってしまっているのだ。その原因とされているのが、12年に社会問題化したコンプガチャ問題である。消費者庁より景品表示法に抵触するとの指摘を受けたことで、グリー、ディー・エヌ・エー(DeNA)をはじめとする各ゲーム会社はコンプガチャを終了させた。
これが大打撃となったといわれるグリーだが、なぜここまで凋落してしまったのか。そして今回参入するバーチャルYouTuber事業は成功するのか。『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(エムディエヌコーポレーション、共著)などの著書を持つゲーム業界に精通したジャーナリスト、多根清史氏に話を聞いた。
逆V字の原因は「ケータイゲーム事情変革の波」と「人材流出」
「グリーはケータイゲーム事情の変革の波をモロに被った企業」だと多根氏は指摘する。
「コンプガチャの問題があった12年頃というのは、ちょうど携帯電話がガラケーからスマートフォン(スマホ)へとシフトする時期でした。それに伴いケータイゲーム市場にも大きな変革の波が訪れたのですが、特に大きかったのが、App StoreやGoogle Playといったスマホ向けのアプリ配信プラットフォームの台頭です。グリーとDeNAは共に、それまで自社プラットフォームからゲーム配信を行っていたのですが、DeNAは早いうちからスマホ向けプラットフォームへとシフトしたため、ケータイゲームに起きた変革の波をうまく乗り越えられました。
しかし、グリーは強みであったガラケー向け自社プラットフォームを捨てきれなかったため、結果として乗り遅れてしまったのです。コンプガチャと自社プラットフォームという、グリーが築いたビジネスモデルの根幹が見事に崩れ去ってしまったわけですね」(多根氏)
さらに、変革の波にのまれた後の対応も悪手であったと多根氏は続ける。
「大ダメージを負ったグリーが主として行ったのは、人員削減によって増えすぎた人材を減らすなどの経営改善ばかりでした。新規事業の開拓などによって変革を起こさなければ、市場のなかで置いて行かれるのも当然でしょう。また人材流出が激しいせいで、変革の波に対応できる優秀な人材も育ちませんでした。
さらに追い打ちをかけたのが、社員があらかじめ決められた金額で自社株を購入できるストックオプション制度です。本来ストックオプションというものは、がんばって働いて会社の業績が上がれば、保有する自社株の価値も上がるため、個々の社員が高いモチベーションを持って仕事に臨める制度です。ところが凋落傾向にあったグリーではこれが裏目に働き、『グリーに将来性はなさそうだから、まだ価値があるうちに株を売って、新天地に行こう』と、お金と共に黎明期を支えた優秀な社員が一気に流出してしまいました。
このように人材も事業も育てられなかったことが原因で、グリーは暗黒期を迎え、DeNAと明暗を分ける結果となってしまったのです。
とはいえ、完全なるだだ下がり、というわけでもありません。現在グリーは『アナザーエデン』というゲームを運営しているのですが、これが成果を挙げつつあります。最近のスマホゲームは、誠意あるゲーム運営によってユーザーとの間に信頼関係をつくることが、収益につながっていく部分があります。このような運営方法は以前のグリーには存在しなかったメソッドでしたが、最近ようやく形になってきたので、暗黒期を抜ける兆しが見えてきたかな、といったところです」(同)
100億円を投じるバーチャルYouTuber事業、グリーの勝算は?
では、次にグリーが参入を発表したバーチャルYouTuberとは、一体どんなものだろうか。
「普通のYouTuberは人間が出演して活動するものですが、バーチャルYouTuberは、自分の動きに合わせて動く3Dモデリングのキャラを使って、YouTuberの活動を行います。一言で言えば、デジタル着ぐるみですね。現在人気が伸びてきている分野で、一番人気のある『キズナアイ』というバーチャルYouTuberなどは、約193万人がチャンネル登録を行っています(2018年6月26日時点)」(同)
それでは、グリーのバーチャルYouTuber事業が成功する可能性はあるのか。
「グリーの荒木英士執行役員が記者会見で、『まず市場や文化をつくることが大事』と述べていた通り、バーチャルYouTuberはまだ未成熟な市場です。ですから早い段階で参入を決めたことで他社に後れを取らなかったことや、100億円投資という話題性で注目を集められたこと自体は成功といえるでしょう。
ただ、グリーは現時点で行っていることといえば、バーチャルYouTuber事業参入を発表したことだけであって、肝心のバーチャルYouTuberはまだデビューしていません。成功の可能性を考えようにも、当のバーチャルYouTuberが存在しない状態では、まだなんともいえない状態なのです」(同)
そして多根氏は、グリーのバーチャルYouTuber事業参入をこう分析する。
「突き詰めて言うと、YouTuberは総合的な人間力が問われるものです。たとえしゃべりが面白かったり一芸に秀でていても、一カ所でもダメな部分があればファンが離れていくことがあります。その点バーチャルYouTuberは、まずルックスのハードルがなくなりますし、画面の演出に凝ったりとチームで盛り上げられる要素も多い。そのうえ撮影スタジオや配信システムなど、バックアップの総合力が問われる部分が大きく、手軽に個人でなんとかできる範疇を超えています。その点でいえば、企業として取り組もうという姿勢は正解でしょう。
ただ、ひとつ懸念点として挙げられるのが、グリーが有名なコンテンツ(IP)を持っていないことです。たとえば、現時点でバーチャルYouTuber事業への参入を発表しているKADOKAWAなどは、『涼宮ハルヒ』や『けものフレンズ』などといった有名IPを多数持っている会社です。するとオリジナルのバーチャルYouTuberがコケたとしても、あくまで仮定の話ですが、涼宮ハルヒにYouTuber活動をやらせれば、一定の利益は見込めるわけでしょう。一方、有名IPを持っていないグリーには、このようなセーフティネットが敷けません。その分リスクも大きいのではないでしょうか」(同)
グリー復活は「厳しい」、カギはバーチャルYouTuberのIP化
では、今後グリーが過去の勢いを取り戻すことができるのだろうか。
「正直なところ、かなり厳しいかと思います。たとえばDeNAは任天堂と協業して、ネット関連のノウハウを任天堂に提供する代わりに、任天堂IPという強力な見返りを得ているわけです。ではグリーの持つノウハウを必要とする企業があるかといえば、現時点ではいないでしょう。
また、バーチャルYouTuberはアニメビジネスに近しいものなので、必然的に顧客層が限定されてしまうのではないか、とも考えられます。『アナザーエデン』も日本製RPGのシステムを踏襲したゲーム性で一定の人気はありますが、爆発的な成長性を秘めているとは言い難いものがあります。
ただ、今後のバーチャルYouTuber事業の育て方によっては、関連の技術を持つ企業として、他社に求められる存在となるかもしれません。同事業の本質は、YouTuber活動でキャラクターを定着させたうえで、グッズを販売したり、ライブを行ったりと活動の範囲を広げていくIPビジネスです。人気バーチャルYouTuberというIPが欲しい会社は山ほどあるでしょう。その市場においてインフラ企業としての基盤を築ければ、任天堂と協業できたDeNAのように、心強い味方をつけて返り咲く可能性もあるのではないでしょうか」(同)
グリーは復活を遂げられるのか、今後の動向に注目していきたい。
(文・取材=A4studio)