国際通貨基金(IMF)が7月に公表した2021年の経済成長率(GDP成長率)の予想では、日本が2.8%なのに対して、アメリカは7.0%となっています。新型コロナウイルス感染症のワクチン接種率の差が、景気の差となって表れているようです。この点については、5月にこのサイトに掲載された私の記事(「米国経済、早くもコロナ脱出で好景気真っただ中‥政府、日本と真逆の大胆&迅速な対応」)でもご紹介いたしました。この時(2021年4月末時点)で、ワクチンを2回接種した人の割合は、アメリカではすでに4割を超えていましたが、日本はまだ始まったばかりでした。
ところが、それから4カ月が経過し、状況が変わってきました。日本では、ワクチンの配分や予約でトラブルを起こしながらも、順調に接種を進めており、8月末の時点で約45%の人が2回の接種を終えました。それに対してアメリカはようやく50%を超えたあたりで、接種率が伸び悩んでいます。接種に前向きな人は早くに申し込みますが、慎重な人やのんびりしている人もいますから、どの国でも徐々に接種率の上昇ペースが遅くなる傾向はあります。しかし、それにしてもかなりペースが遅くなっています。
1つには、ひところに比べると感染者数が減少し、新型コロナに対する危機意識が薄れていることがあるでしょう。アメリカではすでに景気が回復し、コロナ禍が終息したような雰囲気もあります。もう1つは、トランプ支持者などで、頑なにワクチン接種を拒否している人がいるということです。信念で拒んでいるのですから、政府や自治体が接種を促しても、なかなか応じてもらえないでしょう。
今のペースで行けば、近いうちに日本がアメリカを追い抜いてしまいます。もちろん、日本にも接種に慎重な人もいますし、忙しくてなかなか時間が取れない人もいるでしょう。しかし、日本人の横並び意識を考えると、このままのペースで接種が進んでいくかもしれません。
すると、日本でも新型コロナの感染者数が減少し、アメリカのような好景気が訪れるのでしょうか?
「今の状況」だけで判断しない
ワクチンの接種率が一定の水準まで上昇すると、集団免疫ができ、感染の広がりが抑えられるといわれています。以前は6~7割の接種で集団免疫ができるとされていましたが、感染力が強いデルタ株の影響で、8~9割は必要になったとの見方もあります。実際、イギリスでは接種率が6割を超えていますが、デルタ株によって感染が増えています。
日本のワクチン接種のペースが、今後どのように変化するかにもよりますが、今のペースで行けば、年内にはかなり高い割合の人が「接種済み」となります。集団免疫ができるのかはわかりませんが、コロナ感染の脅威は今よりも小さくなるのではないでしょうか。
すると、人々の経済活動が活発になり、景気が回復していくことは十分に考えられます。それでなくても、アメリカや中国が好景気で、輸出はすでにかなり好調になっています。年末から年明けにかけては、予想以上に景気が回復し、それを受けて株式相場が上昇してくることも考えられます。
このような状況は、感染者数が急増している今の状況では考えにくいのですが、株式投資をする上では、十分に考慮に入れておきたいものです。もちろん、さらに景気が低迷し、株価が下がる可能性もありますが、少なくとも「今の状況」だけで判断しないことが大切です。
ワクチン接種率がかなり高くなったとしても、すぐに新型コロナが消滅するわけではありません。「アフターコロナ」となって、コロナ禍前と同じような生活ができるかというと、懐疑的な見方は少なくありません。感染爆発のような急拡大は収まったとしても、感染者数は増えたり減ったりを繰り返すというのです。「第○波」と言われる感染者数の増加が何度も起き、マスクが手放せない生活が続くかもしれません。「ウィズコロナ」が常態化するという専門家は少なくありません。
この点を踏まえると、ワクチン接種率の上昇でたとえ日本の景気回復が鮮明になったとしても、すべての業種が恩恵を受けるとは限りません。「ウィズコロナ」が続くようであれば、今厳しい状況におかれている業種が簡単に回復することは望めません。相場が上昇したとしても、すべての業種が上がるわけではなく、投資対象の選定には十分な検討が必要でしょう。
(文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー)