また、欧州委員会の原則としては、サマータイムの存続・廃止のいずれの場合でも全加盟国で実施することが望ましいとしているが、強制力はないので、一部の国が自国のみ継続すると主張する可能性もあり、議論が長期間におよぶ可能性が高い。よってサマータイムの廃止は継続検討事項となり、近々の変更はおそらくないと考えられる。
欧米で暮らして思うことは、夜遅くまで明るいということである。北のノルウェーから南のスペインまで広がるEUであるが、筆者の住む南フランスでは、夏時間の夏至の日の入りは、おおよそ21時40分である。ちなみに緯度の近い札幌でも日の入りは19時20分である。欧州はそもそも緯度が高いので、夏と冬の昼の時間差が大きい。北に行くほどこの差は大きくなる。冬は、暗いうちに出勤して暗くなって帰宅することになるが、この期間がかなり長い。冬の天候は、東京のように快晴ではなく、イギリスにしてもオランダにしても、曇り雨がちで太陽はあまり顔を出さない。要は、冬はとても長く暗いのである。
ヨーロッパ人は石の家に住み、部屋が薄暗いことには慣れているが、その反動で夏の太陽をとても好む。この感覚は日本人にはあまりわからないであろう。初期の導入の経緯はさておき、サマータイムとは明るい時間をより延ばそうとした結果である。
そもそもの昼夜の時間設定からして、欧米では夏でも明るくなる時間は、日本に比して相当に遅い。その分、夕方遅くまで明るいのである。夏至の日の出時間を見ると、札幌は、3時55分、同緯度のフランス南西部では6時13分である。つまり、フランス南西部の日の出は、札幌より2時間半近く遅いのである。フランス南西部で秋分の日の日の出(夏時間)は、すでに7時45分である。冬時間の冬至で8時半少し前、日の入りは17時20分である。日本との働き方の違い(イギリス人やフランス人は残業をしない)はあるが、こちらで生活をしていて、遅くまで明るいのは良いと思っているし、皆夜を外で楽しんでいる。それゆえレストランをはじめ、こちらの夏の夕食は20時半くらいから始まり、かなり遅くまで飲んで食べている。これは、筆者にはかなりヘビーであるが、欧州の人にとっては日常である。
こうした前提の上に、現在のEUでのサマータイム見直し議論がある。冬時間に固定するか夏時間に固定するかは、何時まで冬の朝が暗くて(=デメリット)、夏の夜が明るいか(=メリット)の選択である。北欧の人にとっては、サマータイムがあろうがなかろうが、冬はとても暗く、夏はとても明るい。
これで、なぜサマータイム見直しの議論がフィンランドから出るのかが理解できる。北に行けば行くほどサマータイムによるメリットは少ないので、時間切り替えによる健康への影響が問題視されるのである。この点を踏まえず、単純に「明るい時間帯を長くする」という発想に基づく日本のサマータイム導入の議論は、ポイントがずれている。