サマータイム導入の可否をめぐり議論が盛り上がっている。欧州では、9月12日にEUのユンケル欧州委員長が、EU加盟国が一律に採用しているサマータイム制度を2019年中に廃止する法案を欧州議会と加盟国の理事会に正式提案した。これを受けて、導入をゴリ押ししようとする自民党は翌13日、サマータイム導入を前提とした議員連盟を、導入を前提としない研究会に切り替え、法案提出の目標時期も今秋の臨時国会から先送りした。
ことの発端は、安倍晋三首相が8月7日、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長の森喜朗元首相と会談した際、サマータイム制度導入の提案を受け、自民党に検討を指示したことだった。以降、「健康に悪い」「残業が増える」「EUでもサマータイムの見直しが始まっているのに世界に逆行している」といった指摘が多数なされている。
前回に引き続き、本稿では本質的な意味での日本社会におけるサマータイムの必要性について考えてみたい。
導入国からみた日本におけるサマータイム導入の必要性
筆者は現在、フランスに在住している。以前にもアメリカ、ドイツ、オランダ、イギリスに住んでいたので、欧米でのサマータイムが生活上どのようなものであるかは実感している。年に2回の時間切り替えが体にこたえる人もいるが、EU内では最大2時間、アメリカ国内では最大3時間の時差があり、サマータイムよりもこの時差の切り替えのほうがはるかに体には負担である。だが、それが大きな健康問題であるという話は聞いたことがないし、時差をなくそうという議論はない。
重要なのは、メリットとデメリットを整理して天秤にかけることである。確かに、フィンランドではサマータイムに反対する署名が7万人分集まったとして、今年1月にEUに廃止を求めたことから議論が起こったが、筆者が在住するフランスでこの議論が盛り上がっているとは思えない。
前述したように、EUのユンケル欧州委員長が、サマータイム制度を2019年に廃止する法案を欧州議会と加盟国に正式提案したが、今後の手続きが進むなかで、もし28加盟国の55%(16カ国)以上の国が賛成し、かつその国々の人口の総数がEU全体の65%を満たす必要のある「二重多数決制」が採用されるとすると、ハードルは高い。そして、ユンケル委員長案は、サマータイムを廃止した場合、現行の「夏時間」と「冬時間」のどちらを通年適用する標準時間にするかは加盟国の判断に委ねるとしているが、これでは、EU内で標準時のバラツキが出てしまう可能性があり、現実的な議論とは思えない。穿った見方をすれば、ユンケル委員長自身に、この法案を通す気がないのではないか。