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鈴木領一(すずりょう)のビジネスの超ヒント!

「ハズキルーペ大好き」で話題沸騰のCMがセクハラ問題にならない絶妙な仕掛け

文=鈴木領一/ビジネス・コーチ、ビジネス・プロデューサー
「ハズキルーペ大好き」で話題沸騰のCMがセクハラ問題にならない絶妙な仕掛けの画像1【ハズキルーペ 公式CM】武井咲・小泉孝太郎・舘ひろし編(「ハズキルーペ 公式チャンネル」より)

 俳優の渡辺謙が、「本当に世の中の文字は小さすぎて読めない!」という絶叫で始まるテレビCM。あなたも一度は観たことがあるだろう。メガネ型拡大鏡「ハズキルーペ」のCMだ。このCMの続編が今、物議を醸している。

 新CMは、今年3月に第一子を産んだ武井咲の復帰第一弾として話題だが、それ以上にCMの中身そのものがネットをざわつかせている。

 今回は舞台が高級クラブとなり、武井咲がママ、常連客として小泉孝太郎と舘ひろしが登場する。武井咲は、かつて主演したテレビドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)さながらに、艶やかな和服姿で、お店で働く美女たちを仕切っている。

 常連客の小泉孝太郎と舘ひろしとの掛け合いの後、やおら武井ママが「みんなハズキルーペを置いて」と女性たちに指示。すると、4つの椅子にハズキルーペが置かれ、3人の女性が次々に上から座っていく。最後にはなんと和服姿の武井ママもハズキルーペの上に座る。

 椅子シーンは、前CMでも菊川怜が演じていたことで話題となったが、今回は4人に増えた。このシーンがセクシー過ぎるとして、ネットでは「セクハラではないか」「悪趣味」などの批判もある一方で、「面白くなってきた」「どんどんやってくれ」という賞賛もあり、世間を騒がせ始めている。

 芸能界でも話題となっており、タレントの伊集院光は、9月24日放送のラジオ番組『伊集院光 深夜の馬鹿力』(TBSラジオ系)で、「ハズキルーペの新しいCM、どうかしてんのよ、もうね」と感嘆しつつも、「誰も止めるな」「いけ!いけ!」と推しまくっている。

優れたマーケティング手法

 賛否はともかく、筆者はマーケティングの視点から、このCMを、ある意味で評価している。

 前CMでは、渡辺謙が「世の中の文字は小さすぎて読めない!」と絶叫することで中高年の共感を誘い、さらに菊川怜がハズキルーペをお尻で踏むというインパクトで、ハズキルーペの存在を強烈に印象づけた。

 耐久性をアピールするCMとしては、イナバ物置の「100人乗っても大丈夫」という有名なセリフや、古くは「象が踏んでも壊れない」筆入れとして、昭和40年代に大ブームとなったサンスター文具の「アーム筆入」などがある。しかし、ハズキルーペのCMは、ただ耐久性をアピールするだけでなく、美女がお尻で踏むという、前代未聞のセクシーさを加えているところが特色だ。

 もし、今回のCMが、渡辺謙と菊川怜のバージョンの前に放送されていたら、今の騒ぎどころではなく、セクハラとして大問題になっていたかもしれない。しかし、前CMで菊川怜の椅子シーンに見慣れた視聴者は、4人連続で座るシーンが放送されても、「ハズキルーペのCMだから」と、あまり抵抗感なく観てしまう。

 さらに今CMでは、絶妙な仕掛けがあることにお気づきだろうか。CM冒頭で、武井ママが、「話題のハズキルーペを、お店で売ります」と宣言するシーンだ。もしこの一言がなければ、件の椅子シーンは、常連客がやらせたように見えてしまい、明らかなセクハラと判断されてしまったかもしれない。武井ママも率先して、ハズキルーペを売るためにプレゼンしているという“初期設定”にしたところが、実にうまい演出なのだ。

 また、もっとも注目すべきポイントは、前CMと今CMで同じセリフが使われているところだ。CM最後に登場する、「ハズキルーペ大好き」というセリフだ。

 前CMでは、菊川怜が、彼女のこれまでのキャラクターからは想像できないほどのオーバーアクションで、両手でハート型をつくり、ウインクしながら「ハズキルーペ大好き!」と叫ぶ。今CMでは、舘ひろしが「ハズキルーペ、好きだな」と渋い声で言うと、武井ママが、ウインクしながら「ハズキルーペ大好き」と応える。舞台が高級クラブだけに、この2人のセリフの掛け合いには、言外の意味が含まれた、絶妙なサブリミナルメッセージとなっている。だが、重要なのはここではない。

「ハズキルーペ大好き」というシーンでは、右側にハズキルーペの機能やスペック、価格がエンドロールのように流れている。

 つまり、右側でハズキルーペの性能を論理的にアピールしながら、左側では「あなたも、きっとハズキルーペ好きになるから!」と、感覚的に訴えているのだ。論理性と感性の両面を持つ人間の脳の特性を考慮した、実に計算された画面構成である。

意外な制作者

 一体、このCMはどこが制作したのかと調べたら、意外な事実が判明した。このCMのプロデュースと監督を務めているのは、ハズキルーペの販売元であるHazuki Company会長でプリヴェ企業再生グループ代表取締役の松村謙三氏自身なのだ。

 松村氏のインタビュー記事(ZAKZAK  https://www.zakzak.co.jp/eco/news/180724/eco1807240007-n3.html)によれば、当初はCM制作をプロのクリエーターに任せていたそうだが、提案通りに仕事をしないために激怒し、「今日から俺がやる」「すべてのリスクは俺が負う」と自らスタッフを集め、衣装選びから出演者のセリフ、演出までをすべて行うようになったという。その結果が、月に数十万個売り続けるハズキルーペの大ヒットにつながった。

 同社は宣伝広告費に100億円以上かけているというが、ハズキルーペの成功は金額ではなく、松村氏の肌感覚にあるといえる。長年ビジネスで培ってきた感覚と、松村氏の個人的な体験から、あの感性に訴えかける独特のCMが生まれたのだろう。

 この大胆なCMが、どこまでいくのか。筆者はマーケティングの視点で観察していこうと思う。
(文=鈴木領一/ビジネス・コーチ、ビジネス・プロデューサー)

鈴木領一/コンサルタント

鈴木領一/コンサルタント

 思考力研究所所長。行政機関や上場企業の事業アドバイスをはじめ目標達成のためのコーチングも行っている。プレジデント誌などビジネスメディアへの記事寄稿多数。また100の結果を引き寄せる1%アクション(サイゾー刊)は、氏のコーチングメソッドを初公開した書籍で、主婦から経営者まで幅広い層に支持されロングセラーとなっている。また、出版プロデュースの活動も行い、代表作には小保方晴子氏の『あの日』(講談社刊)がある。

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