なぜなら、かつてのアマゾンは秘密主義で知られてきたからだ。18年4月にはプライム会員が世界で1億人を突破したことを公開したものの、多くの数字は非公開のままで、成長のグラフは示しても縦軸はない。日本法人は16年に合同会社となり、決算公告の義務がなくなったことで売上や利益の実態も不明だ。
ここへきてアマゾンは、なぜオフィスを公開したのか。狙いのひとつは、多様な人材を獲得するためだろう。新オフィスには礼拝室や搾乳室、男女の区別なく使えるジェンダーフリーのシャワー室も用意しており、人種や国籍、性別にかかわらず活躍できる体制を整えた。
それに加えて、アマゾン自身がオープン化を模索している兆しもある。これまでアマゾンは「地球上で最もお客様を大切にする会社」を企業理念に、書籍のネット販売を皮切りにEコマースを拡大。実際に安くて早いアマゾンの便利さを享受している消費者は多いはずだ。
だが、風向きは変わりつつある。アマゾンはグーグルやアップル、フェイスブックと並び「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業に成長。9月には時価総額が1兆ドルを超え、10月中旬現在もアップルに次ぐ世界第2位だ。創業者のジェフ・ベゾス氏はフォーブス誌の長者番付で1位となり、24年間首位だったビル・ゲイツ氏を抜き去った。
その結果、アマゾンは儲けすぎとのイメージが広まる一方で、労働環境の悪さや賃金の低さが露呈。日本銀行は、物価下落を引き起こしている原因として「アマゾン効果」と名指しし、世界各国が課税強化に向けて協調する動きも出てくるなど、日に日に風当たりは強くなっている。
これに対して9月14日には、ジェフ・ベゾス氏がホームレス支援や奨学金の基金を設立。日本法人のジャスパー・チャン社長も、子どもの貧困問題に取り組むNPOへの寄付を発表した。米国では11月から従業員の最低賃金を時給15ドルに引き上げるなど、社会的貢献のアピールを強めている。
こうした風向きの変化により、アマゾンが貫いてきた秘密主義はさらなる不利益を生み出しかねない。むしろ公開できる部分はオープンにしていくことで、世間の理解を得たほうがメリットになる可能性が高い。異例ともいえるオフィスの公開は、その方針転換の一端といえるのではないだろうか。
(文=山口健太/ITジャーナリスト)