河合塾が8月16日からYouTubeなどで公開していたCM動画『2021年度「大学入学共通テストトライアル告知篇」』がひょんなことからインターネット上で話題を集めている。
女子生徒が持っている楽器がトランペットからトロンボーンに?
動画(下記)は、どこかの高校の屋上で合奏する吹奏楽部のシーンから始まる。女子生徒がトランペットを吹いている後ろ姿が映し出された後、振り向いてカメラに向けて「志望校決まっていないけど、共通テストは受けるし……」と語りかける。教室でゲームに興じる男子生徒らが「受けずに本番はまずいでしょ」と呼びかける場面を挟み、冒頭の女子生徒らが下校する姿で締めくくられている。
一見、なんら問題はなさそうなCMに見えるのだが、この動画が“ネット上で盛り上がっている”と当編集部に連絡してきた40代の男性スタジオミュージシャンは次のように話す。
「下校中の女子生徒が手に持っている楽器ケースがトロンボーンのものです。どうやら、そのことで『違和感を覚える』という声がSNS上で上がっているみたいなんです。
京都アニメーションさんが制作したアニメ『響け!ユーフォニアム』(原作:武田綾乃、宝島社)が一世を風靡したこともあって、最近は現役の吹奏楽部員や経験者じゃなくても、どの楽器がどんなケースに入っているか知っている人が多くなってきているのかもしれません。昔だったら、そんな細かな“違い”はスルーされていたんじゃないでしょうか」
確かにTwitter上では、冒頭と終盤で女子生徒が持っている楽器が異なることについて、「実は双子の姉妹」「きっと楽器修理を頼まれたんだろう」「人数少ない吹奏楽部で、フルートとチューバ兼任してる男子とか見たことあるなぁ…よその学校の子だけど…」(いずれも原文ママ)などと深読みして盛り上がっていた。前述のミュージシャンは語る。
「プロは演奏中に複数の楽器、たとえばジャズミュージシャンに多いですが、サキソフォン奏者がクラリネットやフルートに持ち替えて演奏することが多々あります。同様にトランペットとコルネット、トロンボーンとバストロンボーンの持ち替えなんかも見かけますね。
マウスピースの扱い方が同様なので人数の少ない吹奏楽部の部員なら、“ペットとトロンボーンを掛け持ちで担当する”なんてこともあり得えるでしょう。ただ、そこまで深い設定がこのCMにあるのかはわかりませんが……」
こうしたSNS上での指摘に関して、TV番組制作会社関係者は語る。
「この手の“間違い”に関する指摘は年々増えていますよね。例えば、昭和の時代劇では荒唐無稽な設定や、その時代に存在しない衣装や小道具、大道具などが大量に登場したものです。少なくとも全身タイツ姿の“くのいち”が活躍している時点でおかしいですよね。それに対してすら、批判はありませんでした。良かったのか、悪かったのかはわかりませんが細部のディティールより、とにかく“物語の大枠”や“テーマ”を楽しむことを視聴者が求めていたのではないかと思います。
一方、最近はおかしなところがあれば、SNSに“これはこの時代には存在しなかったはずだ”と書き込まれてしまいます。医学とか科学とか、教育や実生活に関わるような番組やCMなら細部に至るまで正確なコンテンツを作るべきだと思いますし、制作側も細部までこだわったものをつくるよう気を付けるべきでしょう。
ただ、完全なフィクションや今回の河合塾さんのCMのような作品に対して、そこまでの正確性が必要なのかというのは少し疑問です。正確な指摘ではあるけれど、作品の主題やテーマと関係ないんじゃないかな、ということがままある気がするのです」
河合塾「複数の楽器演奏シーンを撮り、ベストな表情を選んだ」
SNS上での同CMの盛り上がりに関し、河合塾経営戦略担当グループ広報チームに見解を聞いたところ、以下のような回答があった。
「現場では、トランペットやトロンボーンなどいろいろな楽器を演奏しているシーンをいくつか撮影し、モデルさんの表情がもっとも良く、“姿勢が前向き”というテーマが表現できているベストなシーンを選んだところ、今回の内容になりました」
(文・構成=編集部)