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「頭脳明晰、かつ礼節を兼ね備え、上には絶対服従、だが盲従に非ず。それでいてリーダーシップあり。そんな人材を、限られた時間で効率よく探し出すのが企業の採用活動」(コンピュータメーカー大手採用担当者)
こうした素養を兼ね備えている人材として、いつの時代も企業側が注目しているのが、防衛大学校(以下、防大と記す)の学生だ。
「防大の学生さんは、4年間、規則正しい集団生活をしてこられた。素行面で問題ない。学業も熱心。語学力も高い。文系学部の方でも数学も強い。運動部への入部を義務付けられている。だから体力、気力も申し分ない。そんな知力・体力・気力の三拍子揃っている防大生は、ビジネスマンとしても十分通用する人材。ぜひ採用したいので、こぞってアプローチしてきてほしい」(同)
●大手企業は防大生採用に意欲
だが防大は、そもそも陸・海・空3自衛隊の幹部自衛官を養成する大学相当の教育機関。学生といえども毎月給与をもらっている特別職国家公務員の身分。1人当たり約250万円の学費をはじめとする費用は、幹部自衛官になるために血税を割いたもの。ゆえに卒業と同時に民間への転身には、防衛省・自衛隊はもちろん、世間一般でも大きな批判がある。
その一方、「防大生の方からの採用面接希望はウエルカムです」(同)という声は、総合商社、マスコミ大手、都市銀行などの採用担当者からも、多々耳にするところだ。
「防大出身者に、採用後の防衛省・自衛隊との人脈云々は、一切期待していません。あくまでも防大生の持つポテンシャルの高さへの期待です。能力的な高さ以上に、国家観を見据えた視野、エリートとして教育された素地、ここがしっかりしているからこそ、ぜひ採用したいと思っています」(都市銀行人事担当者)
●民間就職に好意的な声も
では、防大側は、こうした声をどう捉えているのだろうか。自身も防大OBで、防大教官経験のある現役幹部陸上自衛官はこう語る。
「幹部自衛官を養成する防大では、卒業後の進路は原則、幹部自衛官しかありません。それを目的とした学校なので。身体的な事情などで転身を許可された者以外は、自衛官となることが当然という前提ですから。憲法上の職業選択の自由があるとはいえ、任官辞退【編註:任官拒否のこと】や自衛官任官後の早期退職は、どこか違和感を感じます」(現役幹部陸上自衛官・1佐)
しかし、こうした声は、防大に学んだ人の間では年齢が若くなるにつれて少数派だという。
「人の人生は色々。防大で学んだ結果、どうしても幹部云々以前に自衛官として向いていない、民間企業向きの人もいる。任官を辞退し、外、つまり民間企業や大学院進学など、自衛隊以外の進路に変更する人は、防衛や安全保障を理解した民間人として防衛省・自衛隊の応援団となる。だから外に出る人を『裏切り者』とか『税金泥棒』とか、そういう目で見る人は、防大生の1〜2割ではないでしょうか」(現役幹部海上自衛官・3佐)
●任官辞退・民間就職の厳しい現実
例年、防大は約500人程度の新入生を迎え、このうち卒業するのが350人から400人程度。そして卒業時、任官を辞退するのが5〜10人程度といったところだ。もっとも、バブル期は30人弱が任官を辞退した年もあったという。
今年3月卒業した平成24年度卒業生は、424人中7人の任官辞退者が出た。この7人のうち1人は転身許可者、つまり防衛省・自衛隊の側から自衛隊以外の進路変更を認められた者だ。
任官辞退者の数は、景気の好・不況に左右される要素が大きい。アベノミクス効果の表れか。にわかに活況を帯びてきた今年の就職戦線では、業種問わず、大手はもちろん中堅・地場企業に至るまで、採用担当者は防大生に食指を動かしている。
「平日、日中の採用試験に来られない防大生の方には、その旨を連絡していただければ、何か方法を考えてもいい。海外留学中の学生さん同様、特別枠での採用スケジュールを組むことも検討しています」(建設業大手採用担当者)
企業側が採用スケジュールで便宜を図ってまで採用したい防大生。しかし防大生側にとっては、これでも民間への就職活動は決して楽なものではない。日々の学業、訓練、校友会活動と呼ばれる運動部の活動が多忙だからだ。