事業再生手続中の東証1部上場の電子部品メーカー、田淵電機は10月16日、東証2部上場のダイヤモンドエレクトリックホールディングス(HD)傘下の自動車部品メーカー、ダイヤモンド電機を引受先とする第三者割当増資で30億円を調達すると発表した。
調達額のうち13億円を製造設備の減損などの構造改革、8億5000万円を設備投資、8億5000万円を運転資金に充てる。
ダイヤモンド電機は増資引き受けで田淵電機を子会社にする見通し。田淵電機が12月上旬に開く臨時株主総会で正式に決める。ダイヤモンドエレクトリックHDは、ダイヤモンド電機と田淵電機を傘下に持つことになる。
田淵電機は1925年創業の電源装置製造に強みを持つ電子部品メーカー。太陽光発電市場の拡大を背景に、太陽光発電用パワーコンディショナーの製造に乗り出し、2015年3月期は過去最高の売上高532億円を計上した。パワーコンディショナーは太陽電池や燃料電池が発電した直流電力を家庭で使える交流電力に変換する装置。
ところが、再生可能エネルギーの固定買取価格の切り下げによって国内の太陽光発電市場が縮小し、電力を変換する変圧器の売り上げが激減した。18年 3月期の連結売上は264億円と、ピーク時に比べて半減。最終損益は88億円の赤字(17年3月期も57億円の赤字)と2期連続の赤字となった。不振の変圧器の生産設備などの減損損失で46億円の特別損失を計上。18年3月末の自己資本比率は5.6%と、17年同期の31.1%から大幅に低下した。
単体決算では8億円の債務超過に転落し、金融機関と締結している借入契約の財務条項に抵触。「継続企業の前提に関する疑義注記」(ゴーイングコンサーン注記)が付記された。
そのため6月、私的整理の一種である事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)手続きを申し立て、借入金返済の一部停止などを受けていた。
田淵電機は“脱太陽光発電”を目指し、車載事業に本格的に着手。ダイヤモンド電機の支援を受けて、自動車向け製品の販路拡大につなげる狙いがある。
米国の価格カルテル事件でオーナー家の社長と副社長が失脚
一方のダイヤモンド電機は、自動車用エンジンの点火用コイルの草分けで、太陽光発電用パワーコンディショナーも製造。18年3月期の連結売上は前期比0.3%減の579億円、純利益は同39.2%増の10億円だった。
米国での“価格カルテル事件”で受けた巨額罰金の支払いが終わったことで、増益となった。この価格カルテル事件は、経営に大きな影を落としている。
同社のオーナーは池永重彦元社長。実弟の池永辰朗元副社長など家族合わせて発行済み株式の約40%を保有するが、重彦氏は自ら社長に就けない事情がある。
ダイヤモンド電機は14年、創業以来最大の激震に見舞われた。米司法省は同年1月31日、自動車用点火コイル販売に絡む価格操作で有罪を認め、ダイヤモンド電機の池永重彦前社長に16カ月、池永辰朗前副社長に13カ月の禁錮刑を科した。両氏は米談合カルテルへの加担の責任を取り同年1月10日、それぞれ社長、副社長を辞任していた。
13年7月16日、米フォード・モーターなどへ販売した製品に対して米独禁法違反(価格カルテル行為)があったことを認め、米司法省との司法取引に同意、1900万ドル(約19億円)の罰金支払い(5年分割払い)に応じた。
司法省による自動車部品業界の価格操作に絡む一連の摘発では、15年時点で日本企業を中心に37社が巨額の罰金を科せられ、30人が米刑務所に収監された。罰金額の合計は、日本円に換算して3100億円。矢崎総業が564億円、ブリヂストンは510億円となった。
ダイヤモンド電機は、罰金額はさほど大きくなかったが、オーナー家の社長と副社長が禁錮刑を科され失脚したことで、経営には大打撃を受けた。池永重彦社長の辞任を受けて、後任社長には栗田裕功執行役員が就任した。
だが、その2年後に、オーナー家の復権を目指して栗田社長追放のクーデターが敢行されたのだ。16年6月24日に開催した株主総会で、社長が追い落とされた。会社側の取締役選任議案に対する修正動議に対し、79.95%の賛成があった。
株主総会では、池永辰朗元副社長が修正動議を出して可決された。栗田社長以下取締役5人全員が入れ替わり、コンサルティング会社代表の小野有理氏が社長に就任した。オーナー家の復権を意図した“王政復古のクーデター”と取り沙汰された。
オーナー家の復権とはいえ、池永重彦氏と池永辰朗氏は禁錮刑を受けた身であり、上場企業のトップに返り咲くことは不可能。大株主として経営陣をコントロールするしかない。
ダイヤモンド電機は、カルテル事件の後遺症で表と裏の二重の権力構造になった。ガバナンス(企業統治)に問題あり、とアナリストから指摘されている。
(文=編集部)