カタログ通販が正念場を迎えている。
「ベルメゾン」ブランドのカタログ通販大手、千趣会は業績不振により大規模なリストラを実施する。45歳以上の社員を対象にグループ全従業員の15%に当たる280人の希望退職を募る。17年にも50人の希望退職を募集(実際には134人が応募)したが、今回は、規模を拡大。希望退職に伴う割り増し退職金を支払うため大阪市北区にある本社ビルを売却する。経営責任を取り、星野裕幸社長が退任し、新社長には梶原健司取締役が11月1日付で昇格した。
特別退職金を特別損失として計上する見込みとなったほか、通信販売事業が不振のため、2018年12月期通期の連結業績見通しを下方修正した。売上高は当初予想より65億円少ない1125億円(前期比10.7%減)、最終損益は従来2億円の黒字を予想していたが90~103億円の赤字(同110億円の赤字)と2期連続の赤字となる。
年商は08年12月期に1582億円あったが、10年間で売り上げは3割近く減った。主力の通販事業の18年12月期の売上高は、前期比8%減の927億円、営業利益は11億円の赤字の見込み。通販事業は4期連続の営業赤字になる。軸足を移しているネット売り上げ(単体)は、1~9月の累計で391億円と、前年同期より19%減と振るわない。
J.フロントとの提携を解消
1980~90年代、定期的に自宅に届く商品のカタログを眺めながら買い物ができる利便性を武器に、カタログ通販は主婦らの支持を得て急成長を遂げた。その後はネット通販に押されっぱなしで苦戦が続く。千趣会自身もカタログからネットへの移行を進めてきたが、米アマゾン・ドット・コムや「ゾゾタウン」を運営するZOZO(ゾゾ)などに太刀打ちできなかった。
ネット専業通販の急速な台頭を背景に、実店舗とネットを融合する「オムニチャネル」に流通大手は活路を見いだそうとした。通販のノウハウを得るため、カタログ通販会社は流通大手の“草刈り場”となった。
大丸松坂屋百貨店を傘下に持つJ.フロントリテイリングは2015年4月、千趣会と資本業務提携した。J.フロントは、第三者割当増資や創業者一族からの株式の買い取りによって、千趣会株式の22.62%を100億円で取得し、持ち分法適用会社に組み入れた。しかし、千趣会の業績低迷が続き18年4月、資本業務提携を解消。千趣会が実施した自社株の買い付けに応じ、J.フロントは保有する全株式(1181万株)を1株573円で売却した。
J.フロントに代わって千趣会に出資したのが、政府系の地域経済活性化支援機構(REVIC)だ。REVIC傘下のファンドが18年3月31日、千趣会が発行する70億円の優先株を引き受けた。同ファンドを構成するのは、千趣会のメインバンクである三井住友銀行や、有力地銀など。銀行主導で再建するということだった。
REVICの前身は日本航空(JAL)を“再生”させた企業再生支援機構だ。最近では人材やノウハウの移転による経営支援に軸足を移しているとのことだが、千趣会にとってREVICは強力な助っ人になるのだろうか。
セブン&アイ・ホールディングス(HD)は14年1月、カタログ通販最大手のニッセンホールディングス(HD)を買収した。オムニチャネル戦略強化のために傘下に組み入れた。買収直後のニッセンHDの14年12月期の売上は2083億円だったが、その後は急激に落ち、18年2月期(17年期より決算期を変更)の売り上げは前期比15%減の1022億円、営業利益は53億円の赤字(前期は150億円の赤字)と、業績悪化に歯止めがかからない。19年2月期の売上高は501億円と、さらに半減を予想。セブン&アイHDのニッセンHD買収は失敗に終った。
かつてのカタログ通販の2強は、存続が危ぶまれる崖っぷちに立たされている。
黒字のブライダル事業でワタベウェディングが離脱の動き
千趣会の通販事業は赤字だが、ブライダル事業は黒字だ。全国に23のゲストハウス形式の式場を運営している。ブライダル事業の18年1~6月期の売上高は、前年同期に比べ6.7億円増え88.8億円。営業利益は8000万円増の3.1億円。挙式件数は2239組、平均単価は374万円だった。18年12月期通期は売上高が前期比3%増の187億円、営業利益は同1%減の9.5億円を見込んでいる。
ゲストハウスの運営は100%子会社のディアーズ・ブレイン、プラネットワークのほか、海外ブライダル専門のワタベウェディングが担う。
千趣会とワタベウェディングは15年7月、資本業務提携した。千趣会はTOB(株式公開買い付け)を実施。買い付け価格は1株700円で、株の取得に要した金額は23億円。千趣会は25.99%を保有し、子会社のディアーズ・ブレインの7.99%と合わせて33.98%を持つ筆頭株主となり、ワタベウェディングを持ち分法適用会社に組み入れた。海外のリゾート挙式に強いワタベウェディングと組むことで、多様化する挙式ニーズに対応する狙いがあった。
だが、両社の対立が表面化した。10月29日付日経産業新聞が、ワタベウェディング創業家の渡部秀敏会長がMBO(経営陣が参加する買収)を提案したと報じた。ブライダル事業への依存を強める千趣会側に、ワタベウェディング創業家が経営の独立を求めて反発しているという構図だ。取締役会にも役員を派遣する千趣会は、MBOに反対の意向を示しているという。
ワタベウェディングは終戦後の京都で、創業者の渡部フジ氏が自身の着た振り袖を無償で貸し出したのが始まり。37歳で社長に就任した隆夫氏がハワイなどリゾート地で挙式を行うリゾート婚の草分けとなり、総合ブライダル企業に育て上げた。
少子化や、正式な結婚式を挙げない“ナシ婚”などで挙式の件数は減少。ワタベウェディングは11年にシンガポールで現地のカップル向けの婚礼式場を立ち上げるなど、新たな顧客の開拓を急いだ。とはいっても、新しい市場を捉えたとは言い切れない。18年1~6月期の連結売上高は前年同期比6%増の226億円だったが、最終損益は5.3億円の赤字(前年同期も2.4億円の赤字)と、水面下であがいている。
ワタベウェディングの創業家は新たなビジネスモデルを確立するためMBOを提案し、これに筆頭株主の千趣会が反対しているという図式だ。だが、MBOの成否はどちらに転んでも、千趣会、ワタベウェディングとも厳しい。ブライダル業界は少子化が進み、市場が半分になるのが確実だからである。
千趣会は、内では大規模リストラで社長が交代、外ではグループに組み入れたワタベウェディングが叛旗。まさに内憂外患だ。
婦人服主体のカタログ通販大手、ベルーナは19年3月期に最終利益がこれまでの最高になる見込みだ。千趣会が中途半端なIT化をしても、アマゾンに勝つことはできない。人まねではない本業回帰の道を探すしかないとの指摘が多い。本気度を示す手始めに、REVICと手を切り、別のスポンサーを探したほうが得策だ。カタログ通販の不振が広く知られているなかで、有力なスポンサーを見つけることは容易ではないが、失敗続きの政府系機構に期待していては再生・復活の可能性はないだろう。
(文=編集部)