エントランスの前にライオンの像が設置されているライオンズマンションは、大京の専売特許だ。2006年まで29年連続で発売戸数ナンバーワンの実績を誇ったが、それも今は昔の話である。
人口減少でマンション市場の縮小が避けられないなか、大京は業界再編の波に飲み込まれた。オリックスは連結子会社になっていた大京にTOB(株式公開買い付け)を実施し、完全子会社にする。
オリックスは現在、大京株の67.95%(一部優先株を普通株に転換した場合の議決権ベース、以下同)を保有する。買い付け期間は12月10日までだった。買い付け価格は1株当たり2970円で、総額は770億円。オリックスは11日、大京のTOBを終了したと発表。持ち株比率は94%に達した。応募しなかった少数株主が持つ株式を強制的に買い取る手続きを経て、2019年1月中に完全子会社とする。大京は上場廃止となる。
往時の勢いを失った大京の業績は低迷した。不動産経済研究所のまとめによると、大京が17年に発売した分譲マンション戸数は1119戸で全国13位。かつて、断トツだった大京は、いまやベスト10にも入らない。
事業主別供給戸数のトップは、7177戸を発売した「シティテラス」ブランドの住友不動産で4年連続の全国トップ。2位は投資マンション「プレサンス ロジェ」のプレサンスコーポレーションで5267戸。3位が「プラウド」の野村不動産で5158戸。
大京は子会社の穴吹工務店の1315戸と合わせれば2434戸となり、どうにか6位に入るが、トップを独走していた当時の面影はない。大京は13年4月、「サーパス」ブランドのマンションを展開する穴吹工務店を307億円で買収し、子会社にした。穴吹工務店は09年に会社更生法を申請して経営再建中だった。
大京はストックビジネスに特化
大京が日本一の座を堅持しているものがある。それはマンションの管理戸数だ。
18年4~9月期連結決算の売上高は前年同期比2%減の1306億円、営業利益は同25%減の11億円、純利益は2億9700万円の赤字(前年同期は6億5000万円の黒字)に転落した。マンションの施工戸数が少なかったことから不動産開発事業が赤字になり、業績の足を引っ張った。
一方、マンションやビルの不動産管理事業は堅調だ。管理事業の売上高は757億円、営業利益は41億円。売上高は全社の58%を占める。営業利益は他事業の赤字を補塡し、全体の営業黒字を牽引した。不動産管理事業が大京の大黒柱なのである。
不動産管理事業のうちマンション管理の営業収入は、前年同期比10億円増の382億円、営業利益は2億円増の34億円。マンション管理戸数は2847戸増えて53万4645戸となった。
マンション管理業界は大京傘下の大京アステージと東急不動産ホールディングス傘下の東急コミュニティーが激しく競い合っている。
東急コミュニティーは13年2月にユナイテッドコミュニティーズを360億円で買収して、一時、大京アステージを抜いて国内最大手に躍り出た。大京が穴吹工務店を買収したのはマンション管理で首位を奪還するためだった。
現在、東急コミュニティーの管理戸数は52万戸。大京アステージと、子会社に組み入れた穴吹工務店のマンション管理会社穴吹コミュニティを合算すると53万戸となる。
大京は、マンション管理という安定的なストックビジネスへと経営の舵を切ったのである。これにより、オリックスが大京を完全子会社とする狙いも見えてくる。大京のストックビジネスを取り込むことにある。
オリックスはオフィスや商業・物流施設といった法人向けの不動産を手掛けている。不動産部門の18年3月期のセグメント利益(営業利益)は624億円。17年3月期比で105億円の大幅な減益となった。
大京と穴吹工務店の18年3月期の営業利益は合計201億円。3社を単純合算すると825億円になる。
三井不動産(18年3月期の営業利益2459億円)、三菱地所(同2130億円)、住友不動産(同2056億円)の“御三家”の背中ははるかに遠いが、東急不動産ホールディングス(同775億円)、野村不動産ホールディングス(同766億円)を上回る利益水準となる。
オリックスは法人向け、大京は個人向けが主力。オリックスは大京と経営の一体化を進め、再開発で需要が高まる住居とオフィスを複合した大型施設の開発を強化する方針だ。
モーレツ営業で一時代を築いた横山修二氏の死
18年5月6日、大京創業者の横山修二氏が92歳で亡くなった。マンションデベロッパーの草分け的存在だった。
東京高等工学校(現芝浦工業大学)在学中に学徒出陣。4年間のシベリア抑留を経て復員。戦友の勧めで不動産業を始めた。1960年、大京の前身である大京商事を設立。68年、最初の「ライオンズマンション」を赤坂に建設し、分譲マンション事業に進出した。営業担当者に対する歩合制を導入し、朝8時から夜11時まで戸別訪問や電話セールスのモーレツ営業を敢行。コンビニエンスストアの名をもじって“エイトイレブン”の異名をとった。
バブル真っ盛りの87年、業界の盟主、三井不動産を売上高で抜いた。オーストラリアで巨額な不動産投資を行ったが、バブル崩壊で資金難に陥り経営が悪化。当時、「この10年間で4000億円以上の金利を銀行に支払った。銀行が助けるのは当たり前」と豪語した。ところが、横山氏の自信とは裏腹に銀行はあっさり横山氏を切り捨てた。97年、社長の座を追われ、翌98年に相談役も退いた。
その後、大京は2005年、オリックスの傘下に入った。そして今回、オリックスの完全子会社となることが決まり、大京は上場会社としての歴史に幕を下ろす。
(文=編集部)