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日本郵便、経営危機の足音…ゆうちょ・かんぽからの8千億円の“補給金”が命綱

文=編集部
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JPタワー(「Wikipedia」より

 政府は日本郵政株を追加売却した。売却価格は1株820.6円。10月25日の終値(837.4円)から2%割り引いた価格とした。売却株式数は10億2747万株で、国内で75%、海外で25%売り切った。証券会社に支払う手数料を差し引き8367億円を確保した。政府による日本郵政株の売却は3回目で、すべて東日本大震災の復興財源に充てる。

 郵政株の約60%を持つ政府は総株数の約27%を売り出した。出資比率は郵政民営化法で義務付けられた株式数の3分の1の33%まで下がった。政府は2013年に郵政株の売却で計約4兆円の復興財源を確保する計画を立てており、これまでの2回の売却で3兆円超を確保している。現在の総株数で9500億円を確保するには1株920円程度で売却する必要があったが、想定していた株価を下回ったため、政府は日本郵政株の追加放出で、残り1000億円程度を確保する可能性がある。

 3回目の売却までの道程は厳しかった。傘下のかんぽ生命保険の不正契約問題の発覚で郵政株は下落。今回の売り出し価格は2015年の上場時(1400円)や、17年の売却時(1322円)を大きく下回った。日本郵政の株価は上場来高値1999円(15年)を一度も超えていない。

 日本郵政は政府の売却完了後に1000億円を上限とする自社株買いを実施する。買い入れた株は消却する方針だ。株価維持策であると同時に、消却で総株式数が減れば、政府が追加で持ち株を売却する余地が広がるためだ。

金融2社からの8600億円の業務委託手数料が生命線

 2007年10月の郵政民営化から14年。第3次となる今回の売却で国の出資比率は法定の下限の3分の1の33%まで下がり、大きな節目を迎えた。完全民営化に向けたプロセスが表向きは進んだかたちだが、日本郵政の完全子会社の日本郵便と、グループ金融子会社の、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険はビジネスモデルの転換が遅れ、成長戦略を描けていないのが実情だ。政府による日本郵政の株式の売却が一段落したら、金融2社の株式の売り出しを本格化させるという筋書き通りには進んでいない。

 国際物流の強化に向け、オーストラリア企業の買収で巨額の減損損失を出した。19年夏にはかんぽ生命の不正契約問題が発覚しグループ全体で成長戦略の見直しを迫られた。日本郵政はゆうちょ銀株の約9割、かんぽ生命株の5割弱を保有したままだ。八方ふさがりで売るに売れない状態なのである。

 祖業である郵便事業は郵便の取扱量の減少という逆風にさらされ続け、慢性的な赤字体質から脱却できない。それでも経営が成り立ってきたのは、全国2万4000の郵便局を通じて業務を委託する金融2社から年間計8600億円超の業務委託手数料を受け取ってきたからだ。

 支店の絶対数の少ない金融2社は日本郵便が持つ郵便局を営業基盤とする一方、日本郵便は2社から得る委託手数料を収益源とする。日本郵政の主要子会社3社が相互に依存する構図に変わりはない。近年はむしろグループの一体性を重視する動きが強まっているとの指摘があるくらいだ。

 郵政民営化法は日本郵政に対して金融2社の株式の売却を求めているが、資本関係が希薄になれば、日本郵便に対する“補給金”は減る。収益源を失った日本郵便は一気に経営危機に陥る。2012年、民主党政権下で成立した改正郵政民営化法では、郵便局にユニバーサルサービスの提供を義務付けた。

 全国津々浦々に行き渡っている2万4000の郵便局のネットワークを維持するという至上命題があるわけだが、金融2社と日本郵便の関係が希薄になれば砂上の楼閣となる。民営化法が定める「できるだけ早期に金融2社の(株式の)完全売却」は、すでに絵に描いた餅と化している。

 日本郵便は金融2社への依存度を軽減できるような経営基盤をどうやって築くのか。日本郵便が金融界から新たなパートナーを見つけることなど「事実上不可能」(日本郵政の元幹部)との見方もある。

 かんぽ生命の不正契約問題を受けた経営刷新で、20年1月、元総務相の増田寛也氏が日本郵政の社長に就任した。2025年度までの中期経営計画で金融2社の株式の保有比率を50%以下に引き下げる方針を打ち出したが、売却には「(郵便局の)ユニバーサルサービスに影響が出ないこと」などという付帯条件がついている。

 改正郵政民営化法は現政権の自民、公明両党も合意のうえでつくられた経緯がある。全国郵便局長会の支援を得る与党に改正法を見直す機運はない。この法律の採決で反対票を投じ、官房長官時代に金融庁と足並みを揃えて郵政の経営改革を後押ししてきた菅義偉氏は権力の座から降りた。

打開するにはパワーのある経営者が必要

 日本郵政は楽天グループに約1500億円出資し、資本業務提携した。3月末に第三者割当増資を引き受け、日本郵政は楽天の第4位の株主(出資比率約8.3%)に浮上した。

 楽天モバイルの販促や基地局の設置に全国の郵便局網の活用が盛り込まれ、楽天側のメリットばかりが今は目立つ。明確な成長戦略を描けない日本郵政が「楽天に抱きついた」(アナリスト)と株式市場は冷ややかに見ている。楽天市場向けの宅配(ゆうパック)が伸びるくらいでは、日本郵政グループは「もとがとれない」(同)。

 日本郵政によるかんぽ生命の持ち株比率は21年5月に50%を切った。新規業務の認可は届け出制に変わった。計画通り進めば、数年以内にゆうちょ銀の保有比率も5割を下回る。

 金融2社株の売却の具体的な道筋を示すことができるかどうかで、郵政民営化のゴールは変わってくる。金融2社はマイナス金利下、稼ぐ力が相当落ちている。全国銀行協会は9月、「完全民営化への道筋が示されていない」と、かんぽ生命の届け出制移行についても「慎重な対応を求める」との意見書を出した。「民業圧迫」の批判が根強くある一方で、新規事業への進出に関して手足を縛られている状態が収益改善の足カセになってきたことは否定できない。

 郵政グループだけの問題とはせず、政治も行政も「完全民営化への道筋をどうするか」について真剣に議論しなければならない時期にさしかかった。ピーク時の半分にも届かない株価が郵政グループの先行きの厳しさを映し出す鏡となっている。

 成功体験を持ったパワーのある経営者に代わらないと日本郵政グループの明日はないのかもしれない。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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