厚生労働省発表の「全国民泊実態調査」によると、2016年末時点で、確実に合法民泊といえる物件は16.5%、違法であったものが30.6%、物件特定不可・調査中とされるものが52.9%という結果だった。合法よりも違法のほうが倍近い数字だったことはもちろん、正確な住所が記載されていないものがほとんどだったという調査結果が出ていたことになり、民泊業界が近年までかなりグレーだった証左といえるだろう。取り締まり強化の動きが生じるのにも頷ける。
「民泊新法により、民泊利用の許可を得るためには、通常の住宅よりも多くの防火設備を設置しなければなりませんし、届出に際してはその物件が民泊に利用できることを証明する書類が必要になりました。さらに2カ月ごとに都道府県知事へ報告しなければなりませんし、営業日数の制限も設けられています。違法民泊を運営する人たちはこのような制約を受け入れてしまうと儲けられないとわかっていますから、簡単に届出は出さないでしょう」(同)
五輪特需を狙っても、短期スパンで利益を上げるのは難しい
民泊新法施行により、民泊事業に参入するのは難しくなったということのようだ。
「法規制の強化により、新しく始めようとすると大幅な設備投資が必要となります。条件を満たす消防設備の準備が必要になりましたから、初期投資で100万円以上かかってもおかしくありません。
そういった事情もあり、民泊を正式に許可された物件は、違法民泊に比べて賃料を割高にせざるを得ないケースが多く、現実的な値段設定で固定費を回収していくのは難しいかもしれません。さらなる費用がかかることを考えると代行業者への委託もしづらくなるため、そういう意味で民泊ビジネス参入は難しくなっています。
民泊新法施行前は、初期投資なども少ないので手軽に始められる副業というイメージがあったかもしれませんが、参入規制が設けられたことで本腰を入れて臨まなければならなくなったわけです。つまり、短期間で利益を出そうと考えるのは非常に困難で、数年以上の長期的な運営をしていく覚悟でなければ、利益は出しづらいのです」(同)
健全な民泊の普及のために施行された民泊新法であるが、その規制が参入障壁を高くしたというわけだ。特に賃貸物件で運営をスタートするには、多額の設備投資に加えてランニングコストも考慮しなければならない。
「最近では、大手企業も民泊事業に参入してきました。大きな企業は資金もありますし、スケールメリットで利益を出せますので、個人で運営している方はどのように対抗していくか考えなければなりません。空き家を所有している人や、需要のある場所に土地を持っている人ならば続けていけるかもしれませんが、そうでなければ新規参入のメリットは少ないでしょう」(同)
2020年に東京五輪を控えた日本には、今まで以上に多くの外国人観光客が訪れることが予想される。しかし、五輪特需だけを当てにし、短期的に民泊経営を始めるのは賢明ではないようだ。
(文=A4studio)