6月15日に住宅宿泊事業法が施行される。観光立国を目指す安倍政権は、観光ビザの緩和を段階的に進めてきた。その成果もあり、いまや訪日外国人観光客数は年間2800万人を突破。これまで政府は2020年までに年間2000万人という目標を掲げていたが、これを大幅に上回るペースで増加している。そのため、政府も目標を上方修正。2020年までの目標を年間4000万人とした。
外国人観光客の増加は、衰退に歯止めがかからない日本経済にも大きなインパクトを与えている。そのため、経済界からも外国人観光客の増加を歓迎する声は大きい。
しかし、想定以上の訪日外国人観光客急増で、宿泊施設の整備が追いつかない。ホテル業界からは悲鳴も出ている。そのため、業界は宿泊費の値上げで対応。ビジネスホテルにも値上げの余波が及び、社命で出張をする社員を多く抱える企業には経費増の要因となっている。
政府は宿泊事業者を拡大させるため、民泊を解禁。当初、民泊は国家戦略特区を活用し、エリアを限定していた。しかし、それでは増える外国人観光客需要を満たせないと判断。このほど、住宅宿泊事業法によって民泊は実質的に解禁される。
住宅宿泊事業法では、各自治体に届出をすれば個人・法人を問わずに民泊を合法的に営むことができる。そのため、住宅宿泊事業法は民泊新法とも通称される。
訪日外国人観光客増で日本経済を活性化させることを目論む安倍政権にとって、観光政策といえばIR法案などが注目されているが、民泊新法はそれ以上に悲願の法案でもあった。しかし、民泊新法によって観光業界が活性化し、経済的に潤うと机上でソロバンを弾くのは政府や観光庁ぐらいしかない。実際、現場では民泊新法を蛇蝎のごとく嫌悪する声が聞こえてくる。ある自治体職員は言う。
「訪日外国人観光客が多く訪れる東京や大阪、横浜といった大都市の都心部なら民泊新法は有益でしょう。しかし、古都として売り出している京都や奈良、金沢といった都市では、民泊によって秩序が乱れる心配のほうが大きいのです。また、民泊新法は全国一律で民泊を可能にするので、ベッドタウンとして発展している自治体でも民泊が可能になってしまいます。静謐な住宅街が、一転して観光客が闊歩する騒がしい街になる。地域住民にとって、民泊新法は日常生活が脅かされる危険な法案でしかありません」
無届けのヤミ民泊
各自治体は住民の不安を取り除くために、民泊を規制する条例の制定を急いでいる。それらの条例では民泊を完全に禁止する、もしくは厳しく制限する。それでもヤミ民泊の心配が残る。すでに特区によって合法的に民泊を導入している大阪府内でさえ、無届けのヤミ民泊は横行しているといわれる。