大手メディアが一斉に東京都民銀行(以下、都民銀行)と八千代銀行の経営統合を報じた。
しかし、この両者の経営統合話は1カ月以上前から金融関係者の間では話題となっており、一部情報誌が報じていた。
都民銀行は東京を地盤とする地方銀行だが、金融激戦区の東京にあって長い間苦戦を強いられている。かつては、日本興業銀行系の地銀として同行と友好な関係を築いていたが、同行が富士銀行、第一勧業銀行と経営統合し、みずほグループとなると、その関係は希薄になった。同じ関東に経営地盤を置く地銀中位行の千葉興業銀行、武蔵野銀行などと幾度となく経営統合の思惑が浮上した。
一方の八千代銀行は東京を地盤とする第二地銀。信組として設立され、信金を経て、1991年4月に普通銀行に転換し、八千代銀行となった。
都民銀行の経営状態は、「かなり厳しい状況にある。退職引当準備金があと2〜3年で底をつく」(地銀関係者)といわれており、信金から普通銀行に転換したが、第二地銀の八千代銀行の酒井勲頭取が「第一地銀昇格の野望を持っている」ことが、両者の経営統合話の根幹にある、といわれていた。つまり、八千代銀行が、経営はジリ貧状態の都民銀行との経営統合を足掛かりに、第一地銀の座を狙っているということだ。
両行は01年に、ATMの相互無料開放を行うなどの業務提携を行っており、その経営統合話に信憑性を与えた。
しかし、実際には八千代銀行が一方的に都民銀行をのみ込むような構図ではない。八千代銀行は、00年8月14日に経営破綻した国民銀行の店舗網と預金、正常債権を譲り受けた。この時に預金保険機構から1837億円の贈与と350億円の公的資金を注入されている。
八千代銀行関係者は、「いまでも行内で国民案件と呼ばれる国民銀行の案件処理が残っており、これが経営負担になっている。八千代銀行も経営が楽な状態ではない」という。
隠れたキーマン
実は両者の経営統合話の背景には、キーマンがいる。それは、現在の三井住友トラスト・ホールディングス傘下にある三井住友信託銀行だ。同行は旧中央三井信託銀行と旧住友信託銀行が統合して誕生したが、この三井住友信託銀行こそが今回の経営統合話の仕掛け人。
八千代銀行は、国民銀行を譲り受ける際の公的資金を、06年3月に業務・資本提携した旧住友信託銀行に第三者割当増資を行うことで、返済した。現在、三井住友信託銀行は、15.3%の八千代銀行株を保有し、八千代銀行の筆頭株主となっている。
その三井住友信託銀行が、成果の上がらない八千代銀行との提携関係に終止符を打つことを考え、都民銀行に対して「八千代銀行株の買い取りを働きかけていた」(都民銀行関係者)ことが、今回の経営統合話の発端なのだ。
加えて、自民党の日本経済再生本部が、安倍晋三政権の政策の柱となる「骨太の方針」の取りまとめに当たり、「地域金融機関の再編促進」を打ち出し、「地方経済の再生には、地域金融機関の再編による機能強化が必要」としたことが、両行の経営統合を後押しした。
さらに、金融庁の畑中龍太郎長官が異例の留任により、前代未聞の長官3年目に突入した背景には安倍政権の後ろ盾があり、畑中金融庁にとって “地域金融機関の再編促進”は安倍政権に対する“恩返し”となった。このため、都民銀行と八千代銀行の経営統合は、畑中金融庁にとって“棚からぼた餅”のような話であり、もろ手を挙げて賛成している状態だ。
つまり、都民銀行と八千代銀行の経営統合話は、筆頭株主の三井住友信託銀行による八千代銀行との提携解消のもくろみが引き金になり、それに監督官庁の金融庁が乗ったという構図であり、当事者の都民銀行と八千代銀行は“蚊帳の外”で構想されたものを押し付けられたという構図なのである。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)