破談になってもいい名前
「3、A社とB社が合併してAB社」というパターンでもっとも露骨だったのが、大阪商船三井船舶(現・商船三井)だ。
1964年に「海運集約」といって、海運不況を乗り切るため、多すぎる海運会社を合併・集約させたことがあった。その時、三井船舶は1963年9月に川崎汽船との合併を発表したが、合併後の社名に三井を付けるか否かで揉め、結局、合併は破談。3カ月後に大阪商船との合併を決め、1964年4月にゴールイン。世間を驚かせた。
通常なら、合併後は大阪三井商船、三井大阪船舶などのような名前になるだろう。ところが、単純に2社の社名をくっつけただけの社名(大阪商船三井船舶)に、世間は二度びっくりした。「合併が破談になっても、片方を消せばいいような社名にしたのだろう」という噂すらあったのだが、結局両社はその後離婚することなく末永く続き、今では商船三井と名乗っている。
本音が透けて見える英文表記
ちなみに、大阪商船三井船舶の英文表記は“Mitsui O.S.K. Line”である。合併前に海運業界2位だった“大阪商船”を日本語表記で先に書き、英文表記は海外に著名な“三井”を先に書くという、いいとこ取りの社名になっている。この違いを問われた関係者は、「あいうえお順、アルファベット順で、早くなる社名を先にした」と煙に巻いたという。
日本語表記と英文表記の順番が異なる事例には、“三井住友”がある。いうまでもなく、三井グループ企業と住友グループ企業が合併した企業である。日本語表記はすべて三井が先だ。しかし、英文表記は違う。
日本語表記→英文表記
・三井住友銀行 →Sumitomo Mitsui Banking
・三井住友信託銀行 →Sumitomo Mitsui Trust Bank
・三井住友建設 →Sumitomo Mitsui Construction
・三井住友海上火災保険→Mitsui Sumitomo Insurance
つまり4社中、三井が先になっているのは1社だけ。ご想像の通り、合併する前、三井と住友のどちらが強かったかの力関係が如実に表れている。
住友銀行とさくら銀行(旧太陽神戸三井銀行)の合併は、住友銀行によるさくら銀行の救済合併と揶揄されたぐらい両社に実力差があった。それにもかかわらず、日本語表記は三井が先になっている。この違いを問われた関係者は、「社名変更する時、看板から最初の二文字を外せば良いから」とうそぶいたという。救済合併のようなものだから、そのうち行名を住友銀行に戻すというブラックジョークだ。そんな本音が英文表記に表れている。