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岩崎家が激怒して残った「三菱銀行」のブランドと、財閥名にこだわらない三井の違い

文=菊地浩之
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岩崎家が激怒して残った「三菱銀行」のブランドと、財閥名にこだわらない三井の違いの画像3三菱財閥の創設者である岩崎弥太郎(撮影時期不明、Wikipediaより)

社名には「三菱」と付けるべし!

 話を元に戻そう。三井船舶が川崎汽船との合併を破談にしたのは、合併後の社名に三井という財閥商号を残すか否かが理由だった。ただし、三井グループ企業はむしろ三井商号に未練が少ないというか、執着することが少ないほうだ。執着心MAXなのは、三菱と住友。なかでも三菱グループでは三菱商号に対する執着が半端ない。

 戦時中、国策で大手銀行の合併が勧められ、1943年に三井銀行が第一銀行(現・みずほ銀行)と合併、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)が第百銀行と合併した。三井・第一は合併して帝国銀行と名乗ったが、三菱・第百は三菱銀行のままとした。

 規模は第百銀行のほうが大きかったので、第百側は対等合併を希望し、大蔵省(現・財務省)も合併後は行名を変更するように三菱銀行に働きかけた。ところが、三菱財閥のトップ・岩崎小弥太はあくまで「吸収合併でなければならない」と主張し、合併後も三菱銀行を名乗ることに成功した。さすがは日本有数の財閥トップである。主管官庁の要請なんか聞きやしない。「名は体を表す」という格言の通り、合併後は旧三菱側が完全に主導権を握り、現在に至っている。

 そして、軍部の要請で三菱商事が海運部門を分離し、既存の海運会社と合併させて別会社にする話が浮上した。当初の相手だった辰馬(たつうま)汽船(のち山下新日本汽船、ナビックスラインを経て、現在の商船三井)は、合併後に辰馬でも三菱でもない、ニュートラルな社名をつけるべきだと主張した。

 これを聞いた岩崎小弥太は、「三井(銀行)は第一(銀行)と合併し帝国銀行とした。三菱ではそんな馬鹿なことはせぬ。第百(銀行)を合併し三菱銀行とした。世間に対しては三菱が責任を負はねばならぬからである。汽船会社も三菱と名付くべきである。(その)為めに話が壊れても宜し」と言って合併交渉を破談にしてしまった。かくして、三菱商事は船舶部を分離して岡崎汽船と合併させ、三菱汽船(のち三菱海運。海運集約で日本郵船に吸収合併)を設立した。

 三菱商号を残すか否かで合併を破談にさせるのは、決して昔話ではない。2005年1月、三菱製紙が中越パルプ工業との経営統合を発表したが、新社名に「三菱」を残すか否かで、その4カ月後に交渉が決裂した。つい十数年前のことである。

消える「三菱」「住友」

 合併後の社名に財閥商号が残せるか否かは、合併で主導権を握れるか否かにかかっている。ところが、最近では財閥商号を残せない事例が増えている。

 1999年、経営不振に陥った三菱石油が日本石油に救済合併された時、社名は日石(にっせき)三菱となったが、2002年に新日本石油と改称、その後合併を重ねてJXTGホールディングスとなり、いまや三菱の名残などない。

 同様に、2012年に住友金属工業は新日本製鉄と合併して新日鉄住金と改称。住友金属工業は「住友御三家」の一角を占める住友グループの有力企業だが、住友商号を残すことができず、略称・住金を残すにとどまった。第三者から見ると“住友”も“住金”もたいして変わらないように思えるのだが、住友グループにとっては大違い。しかも結局、今年4月には日本製鉄に改称し、住友の名残を完全に消し去ってしまった。

 住友金属工業の子会社・住友軽金属工業も、2013年に古河スカイと合併してUACJ(United Aluminium Company of Japanの略)と改称し、住友商号を捨てている。

 もはや生き残るためには財閥商号になんて構っていられない。世知辛い世の中になったものである。
(文=菊地浩之)

岩崎家が激怒して残った「三菱銀行」のブランドと、財閥名にこだわらない三井の違いの画像4
●菊地浩之(きくち・ひろゆき)
1963年、北海道札幌市に生まれる。小学6年生の時に「系図マニア」となり、勉強そっちのけで系図に没頭。1982年に國學院大學経済学部に進学、歴史系サークルに入り浸る。1986年に同大同学部を卒業、ソフトウェア会社に入社。2005年、『企業集団の形成と解体』で國學院大學から経済学博士号を授与される。著者に、『日本の15大財閥 現代企業のルーツをひもとく』(平凡社新書、2009年)、『徳川家臣団の謎』(角川選書、2016年)、『三井・三菱・住友・芙蓉・三和・一勧 日本の六大企業集団』(角川選書、2017年)など多数。

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