米朝首脳会談が決裂した2月28日、地味ではあるが韓国経済の将来を揺るがす衝撃的な統計が公表された。韓国の合計特殊出生率が「0.98」と1を割ってしまったのである。合計特殊出生率は2005年に1.09にまで落ち込んだ後、2012年には1.30に回復した。しかしその後は再び下落基調となり2017年は1.05にまで低下し、2018年には1を割る事態に至った。
合計特殊出生率に関しては人口置き換え水準が重要である。人口置き換え水準とは、人口が将来にわたって増えも減りもしないで、親の世代と同数で置き換わるための合計特殊出生率の水準を表す指標であり、韓国では2.1である。韓国では1983年以降、合計特殊出生率が置き換え水準を下回っており、今回は切りのいい数字を下回ったといった意味しかないが、心理的にはインパクトのある数値である。
合計特殊出生率の低下は韓国経済に長期的な影響を与える。まずは経済成長率の低下である。合計特殊出生率の低下によって将来の人口減少はより深刻となり、高齢化のスピードが速まる。経済成長率のベースラインとなる潜在成長率は、労働力人口の伸び率が落ち込むことにより低下する。また高齢化が進むことで、マクロでみた貯蓄率が低下すれば、投資率が低下し、ひいては資本蓄積の伸び率が低下する。資本蓄積の伸び率が低下すればやはり潜在成長率が低下する。
つまり合計特殊出生率の低下は、成長の源泉である労働投入および資本投入の伸びの低下という2つの経路を通じて潜在成長率を引き下げ、実際の経済成長率もこれに伴って低下する。
また、合計特殊出生率の低下は社会保障費の増大と財政構造の悪化を引き起こす。韓国の高齢化率は2018年には14.3%であり、日本が28%を超えることを勘案すれば低水準でとどまっている。しかし韓国では今後、高齢化率が急速に高まることが予想され、2016年に公表された将来人口推計によれば、2049年には高齢化率が日本を上回り、2058年には40%を超える。
2016年推計では、2015年に1.24であった合計特殊出生率が2020年にも維持され、その後は上昇に転じて2040年には1.38になるという仮定が置かれている。将来人口推計では、標準的な仮定とともに、合計特殊出生率が2020年に1.10に低下するといった悲観的な仮定を置いた推計も行っているが(低位推計)、韓国では悲観的な仮定をはるかに下回る現実に直面している。
高齢化が進めば、年金、医療保険、介護保険といった社会保障費の支出が増え、財政に大きな負担がかかるようになる。韓国の国家債務の対GDP比は2018年で39.5%にすぎないが、今後はこれが急速に高まり財政が破綻する可能性も否定できない。