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第一三共、海外大手と提携で「7600億円獲得」に潜む死角

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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 しかし、そう判断するのは早計だ。現時点で、同社の競争力が高まっていると判断することはできない。なぜなら、第一三共がん治療新薬は開発段階にあるからだ。グローバルな新薬開発競争に勝ち残るには、米FDAからの承認が得られるか否かが決定的に重要となる。米Biotechnology Innovation Organizationによると、2006年から2015年の間、FDAの承認確率はすべての医薬品において9%程度、がん治療薬の分野では約5%と低い。

 加えて、1つの新薬開発にかかる資金は、1000億円程度といわれている。製薬企業にとって、承認の獲得に加え、開発に必要な資金と時間の面で、新薬開発のリスクは高いのである。
 

難しさを増す第一三共の経営

 
 新薬の開発は、大規模の不動産開発同様、“当たるも八卦当たらぬも八卦”だ。新薬開発のリスクを吸収した上で成長を目指すために、欧米のメガファーマは拡大主義の戦略をとっている。第一三共が収益を増大するには、連続的にパイプライン(新薬の候補群)を拡充すると同時に、事業規模を拡大しなければならない。

 その考えを成果に結びつけることは、口で言うほど容易なことではない。今後、第一三共の経営の難しさは格段に高まるだろう。特に重要性が高まるのが、経営者の実力だ。どのような人物が同社の経営判断に携わるかが、同社の中長期的な成長に無視できない影響を与えるだろう。

 今後、第一三共の経営者には、バイオテクノロジーなどに関する高度な専門知識と、当局との交渉や企業の買収・提携に関する実務の両面における専門性と経験が求められる。片方の分野で高度な能力を持つ人を見つけることなら、比較的対応しやすい。ただ、その両方にたけた人材(ベン図の積集合)を見出すことはかなり難しい。現時点で、同社内にそうした人材がいるか否かも不透明だ。

 欧米のメガファーマや日本の武田薬品同様に、今後第一三共も競合相手の買収を検討するだろう。突き詰めて考えると、買収の成否を分けるのは、人を見分ける力だ。被買収企業にとって都合が悪い情報が、買収企業にうまく伝わらないこともあり得る。また、日本と異なり、海外では契約内容がすべてに優先する。わが国の感覚で「なんとかなるだろう」と思われることが通用するとは限らない。むしろ、わが国の常識は通用しないとの認識を持ったほうが良い。

 最終的には、交渉相手の真意を見極めることができる経営者がいるかいないかが、海外市場でのシェア拡大を目指した戦略の成否を分けるだろう。これは、業務提携も同じだ。

 第一三共には、インドのジェネリック医薬品大手ランバクシー・ラボラトリーズの売却という苦い教訓もある。同様の展開は避けなければならない。第一三共がさらなる成長を実現するために、専門知識と経営実務の手腕を発揮し、成果を実現できる人材の確保は急務といえる。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

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