国内医薬品大手である第一三共が、世界市場で生き残りをかけた英大手製薬企業との提携を発表した。これは、同社が世界の大手製薬メーカーとして経営を続けるための必須の条件ともいえるだろう。
日本では少子化・高齢化・人口の減少が同時に進んでいる。高齢者を中心に医薬品を必要とする人は多い。一方、政府は医療費負担を減らすために薬価を引き下げている。国内市場で、製薬企業が収益を獲得することは難しくなることは間違いない。
国内製薬企業が生き残るためには、大きく分けて2つの選択肢がある。1つは、企業規模を大きくせず、ニッチな分野でシェアを守り一定の収益を追求する戦略だ。そしてもう1つは、新薬を開発し世界の製薬市場におけるシェア獲得(事業スケールの拡大)を追求する戦略である。
第一三共は、開発中の抗がん剤に関して英製薬大手のアストラゼネカと提携し、世界市場で勝負することを選んだ。現時点で、その判断が第一三共の成功につながるか否かは不透明な部分もある。新薬の開発には莫大な費用と時間がかかる。今後、同社がその費用負担と収益性をどのように調和させるか、経営判断は一段と難しくなっていくことだろう。
第一三共を取り巻く経営環境
第一三共をはじめ、わが国の製薬企業を取り巻く環境は厳しさを増している。国内では、薬価が下落傾向にある。これは、製薬企業の収益を減少させる要因だ。高齢化が進むとともに、医療をはじめとする社会保障制度の維持にかかる公費負担は増す。財務省は、薬価引き下げなどを通して財政の悪化を食い止めたい。
また、政府はジェネリック医薬品(後発医薬品)の普及も重視している。ジェネリック医薬品は新発医薬品の半分、あるいはそれ以下の価格で提供されている。これは、第一三共などにとって大きな脅威だ。
一方、海外の市場では、大手製薬企業を中心に、新薬開発をめぐる競争が激化している。理由は、がん領域などでより有効な治療薬を創出し、収益を獲得しようとする傾向が増えているからだ。加えて、大手製薬企業は、米国をはじめ、薬価が上昇傾向にある市場での利得を狙っている。製薬企業がこの競争に勝ち残るためには、より大きな市場のシェア(スケール)を手に入れると同時に、他社が開発できていない新薬をいち早く開発して先行者利得を確保する発想が欠かせない。