マック1000円バーガーは成功だったのか?売上減ストップのカギはコンビニと外食?
当初は夜18〜19時を過ぎても営業している小売りは珍しく、それだけでも価値があった。しかし、今や24時間営業は当たり前。ドラッグストアやディスカウントストアなど、より幅広い品揃えを誇る店舗が深夜営業する他業態も少なくなく、利便性はもはや当たり前のものとなってしまったのだ。
これでは、競合他社との差別化など到底できないし、利便性がある程度充足されてしまった以上、そのままの延長線上で運営していたのでは消費者から飽きられてしまう。
そこで、コンビニ各社は利便性の維持は前提にした上で、その上で購入意欲をそそる工夫をしている。プレミアムロールケーキなど、ちょっと高付加価値な200円デザートを打ち出し、ヒットさせたローソン。短いサイクルで新商品を投入するセブン-イレブン。
コモディティを売る中でも、消費者に「買う楽しみ」を訴求しているのだ。
●価値と価格のバランス向上=“コスパ”の向上
翻って外食はどうだろうか?
均一価格の居酒屋チェーンや290円の牛丼、100円の回転寿司など、デフレ化で各社が繰り広げた低価格競争も集客増、売上増には結びつかなくなってきた。それはなぜか?低価格業態が必要とされなくなったからではない。依然として有力な、そして消費者から見てニーズのあるカテゴリーであることは変わりない。
現在の価格水準が、すでに消費者の求める低価格の水準を超えてしまっているのだ。引き続き低価格を求める消費者もいれば、「安いだけでは買わない。値ごろ感は欲しいけれど、ある程度品質が高くないと買いたくない(消費したくない)」という層が増えてきているのだ。
コストパフォーマンス。略して“コスパ”というキーワードが広まって久しいが、現在はまさしく「価値と価格のバランス向上=“コスパ”の向上」が競争のカギとなっているのだ。
このような視点で考えると、現在成長し続けている企業・業態に、単なる低価格を追求しているところは少ない。
回転寿司チェーンで売上高トップのスシローも、単なる安さ追求ではない。「うまいすしを、腹一杯。」という打ち出しからもわかる通り「一皿たった100円でこれだけ美味しいすしが食べられるのか!?」という驚きを消費者に提供している。また、100円均一に固執せず「吟味ネタ」と称して189円の寿司を投入するなど、「上質なものを手ごろな価格で(味わえる)」という価値をとことん追求しており、まさに“コスパ”を重視した取り組みを実施している。
●ブランドイメージを向上させるためのアンカー
このような流れを見ていくと、なぜマクドナルドで65円バーガーが売れなくなったのか、そしてなぜ今このタイミングで1000円バーガーを出すのか、という疑問についての答えが見えてくるのではないだろうか。1000円バーガーは、消費者から見たマクドナルドの商品の質のイメージ(ブランドイメージ)を向上させるためのアンカー(錨)なのだ。
この1000円バーガーの存在には副次的効果もある。それは「マクドナルドのハンバーガーは上質」というイメージを訴求することで、ビッグマックやフィレオフィッシュなど、既存の定番商品の相対的価値も上げることができるということ。
先のコンビニ各社の事例で見た「買う楽しみ」の訴求や“コスパ”向上の追求。これこそが成熟期を迎える市場における多くの小売りや外食にとっての成長の処方箋なのだ。
以上を踏まえると、マクドナルドが今後とるべき施策は以下の3つ。
1.高付加価値商材(ハイエンド商品)の投入・定着化による「高品質イメージ」の向上
2.継続的な新商品投入による、消費者にとっての「新しいハンバーガーに出逢える楽しみ」の訴求
3.定番派生商品/定番リニューアルによる、定番の商品力維持・向上
このうち、気をつけなければいけないのが「高付加価値商材の投入」。
消費者がマクドナルドに求めている役割、ポジショニングを踏まえた(その範囲の中での)ハイエンドであって、トリュフなどの高級食材をただ使えば良いというものではないのだ。
そのような意味では、今回の1000円バーガーは半分成功、半分失敗であろう。ハンバーガーショップが少ない郊外であればまだしも、都市部では顧客単価が1000円前後の付加価値型チェーンや手作り感を出す個人店が割拠している。
今回のように、1000円も出せば、よりジューシーな肉で、手作り感満載の美味しいハンバーガーはいくらでも食べられる。しかも不必要に過剰なパッケージでお化粧を施しているが、むしろ商品の価値を下げてしまっているのでやめたほうがよい。「味が足りないのを過剰包装(雰囲気)でごまかそうとしているんじゃないのか?」と、いとも簡単に消費者に見透かされてしまう。
こうなると、マクドナルドの1000円バーガーは「1000円出してこれなの(この程度の価値なの)?」とむしろ失望感につながり、評価を落とす結果になりかねない。これでは逆効果だ。
また、自動車のレクサスが05年に日本で販売を開始した頃、「中身はトヨタと変わらず外身(外装、ロゴ等)が変わっただけ」と揶揄されたように、「大衆」「値ごろ」というイメージが強いブランドや会社が上質感を打ち出そうとしても、一朝一夕には上質なイメージは浸透していかない。
しかし粘り強く高付加価値商品の投入を続けていくことで、必ずブランドイメージは向上していくだろう。