マック1000円バーガーは成功だったのか?売上減ストップのカギはコンビニと外食?
金融機関や外資系コンサル、全国展開する小売チェーン(再生担当取締役)を経て、現在は幅広い業界企業に対する事業戦略立案、R&D戦略等による企業価値向上支援などを手掛けるストラテジクスパートナーズ代表取締役を務める山田政弘氏。そんな山田氏が、話題のビジネス/業界トレンドや経済ニュースを、豊富な知識と“現場での経験”を踏まえ、わかりやすく解説します。
●小売りの基本に立ち返った1000円バーガーとクォーターパウンダー新作攻勢
「クォーターパウンダー ゴールドリング」「クォーターパウンダー ブラックダイヤモンド」「クォーターパウンダー ルビースパーク」と3週連続、土曜日限定、数量限定で発売されたマクドナルドの1000円ハンバーガー。7月にマクドナルドが実施した企画で、多くのメディアにも取り上げられ話題になったが、「また話題づくりか?」と受け取った読者も多いかもしれない。
しかし、同社の原田泳幸社長が「これはPRでも単価アップの施策でもない」と言っている通り、これは単なる話題づくりのための奇策ではない。むしろ、小売りのセオリーに則したベーシックな打ち手とさえ言える。マクドナルドが試行錯誤を経て導き出した結論は、「原点回帰」に尽きる。
●過ちを犯したマクドナルド:定番を売るために定番を売り込んではいけない
マクドナルドの既存店売上高が継続的に前年を下回り始めたのは2012年4月以降。この一報が伝わるや、メディアはこぞって「ついにマクドナルドの成長神話に陰り」と一斉に書き立てた。しかし、前年割れの予兆は、それより遡ること数カ月前にすでに現れていたのだ。
それはクーポンの乱発と定番商品の値引きキャンペーン。
「創業以来の人気サイドメニュー『マックフライポテト』全サイズ 特別価格150円」(通常価格はMサイズで240〜270円/値引き期間:2012年1月30日〜2月3日、2月22日〜2月28日)
※マクドナルドは地域によって異なる価格設定を行っている
「創業以来、不動の人気を誇る定番メニュー『ビッグマック』創業価格200円」(通常価格は290〜340円/値引き期間:2012年2月10日~16日)
この時期の前後はとにかく、値引きを前面に押し出したキャンペーンが目立っていた。
しかし、定番をアピールしても、消費者には「何を今さら?」でしかない。むしろ定番商品を値引きして売ることで、消費者からは「すぐ値引きするから、安い時に買えば良い商品」と見られてしまい、定価販売時の購入数が減ってしまう。そして最も大きい影響は、商品ブランド力が低下すること。これでは逆効果だ。
定番を売るために必要なのは、継続的かつ地道な新商品投入や定番の派生系(引き立て役)商品の投入、そして定番商品のマイナーチェンジ。この3つの打ち手の組み合わせこそが、定番商品のブランド力を向上させる唯一の近道なのだ。
●異業種に学ぶヒント
マクドナルドが打ち出した今回の新商品投入は、まさに外食(広義の小売り)の基本に立ち返った施策なのだが、マクドナルドの施策の効果をわかりやすく示してくれている異業種の事例がある。
それはコンビニ。
例えばセブン-イレブンは、1〜2週間に1回という短いサイクルで、おにぎりやパンなどのPB(プライベートブランド)で新作を出している。私も新作が出ると必ず試すようにしているが、「梅と鶏ささみのさっぱりおむすび」といったまったくの新機軸で打ち出した商品もあれば、「手巻おにぎり群馬県産 白加賀梅」といった「どこが新商品なのか?」と感じてしまうような「昔見たことのありそうな商品」もある。
前者はまったくの新味だが、後者は自動車で言うところのマイナーチェンジ。「梅干しのおにぎり」という基本のパターンの上に、素材(産地)を変えたり、梅をつぶす、種ありにする、かりかり梅を混ぜる等々、“ちょっとした違い”をつくることで、新鮮味を打ち出しているのだ。
これは、小技でもなんでもない。セブン-イレブンに行けば、「毎回必ず新しい商品に出逢える」というイメージと価値を消費者に提供するための周到な打ち手なのだ。
どちらかといえば、「毎日日常で必要になる食品や飲料といったコモディティ(汎用品)を淡々と売る」というイメージのコンビニ。
1960〜70年代に日本でコンビニが登場した当初は、コンビニエンス(便利)という語源からもうかがい知れるように、「身近で必要なものがいつでも(時間と場所を選ばず)買える」という利便性、機能面を前面に出して成長を遂げてきた。