つまりテレビ業界は、行政機関や大企業の世界より早くから「非正規雇用」システムを導入していた“大先輩”であり、先駆者であり、いわば同じ穴の狢だった。
ちなみに、25年ほど前に皮肉を吐いていた「非正規雇用」ディレクターの一人は、今から10年ほど前、くも膜下出血で急逝した。享年39。過労が原因だった。当時、彼は慢性的な金欠状態に陥っていたため、加入していた郵便局の「簡易保険」保険料の支払いが滞り、亡くなる1カ月前に保険が失効。遺族は保険金を受け取ることができなかったという。
ところで、我が国の労働基準法の第一条は次のように述べている(太字は筆者)。
労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
誰がこの労基法を骨抜きにしたのか。
小泉純一郎氏が騙されていたのは「原発」だけではない
非正規とは正規に非(あら)ず――。まるで身分の低い人間であるかのような呼び名に聞こえる。
非正規雇用、とりわけ労働者派遣業は今の世に、戦前の「小作農(こさくのう)」制度を蘇らせていた。雇い主が直接、非正規雇用する契約社員や非正規公務員は「直接小作人」そのものであり、派遣業者というブローカーを通した派遣社員にしても「間接小作人」とそっくりだ。参考までに書き添えておくと、2010年度の厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」によれば、一般労働者派遣事業の「派遣料金」の平均は1万7096円で、派遣労働者に支払われる平均賃金は1万1792円。これから弾き出されるマージン率(ピンハネ率)はおよそ30%である。
雇用は本来、「正規」と「非正規」に分けて考えるものではない。雇用は雇用である。問題は、「正規」労働者には当たり前のこととして認められている、労働者としての基本的な権利(有給休暇、ボーナス、労災請求、住居手当、扶養手当、通勤手当、食事手当、福利厚生、退職金など)が、「非正規」の労働者にはなぜか認められていない――という点にある。「雇い止め」に至っては、「非正規」労働者限定用語だ。
厚労省の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(2014年)によれば、従業員が5人以上いる民間の事業所が、従業員を非正規雇用で賄っている最大の理由は「賃金の節約のため」(38.8%)だった。