民間ばかりかお役所までが率先して非正規雇用を増やすようになるきっかけは、2005年の自民党・小泉純一郎政権下で打ち出された「集中改革プラン」である。同プランを推進する中核を担ったのは総務省。当時、総務大臣を務めていたのは、同プランの恩恵を最大限に享受している労働者派遣業大手・パソナグループの現会長・竹中平蔵氏である。以降、全国各地の自治体では、正規公務員の採用枠を減らしていく一方で、非正規公務員の数を激増させていくことになった。
小泉政権の旗印は「郵政民営化」と「聖域なき構造改革」(公的企業の民営化、政府規制の緩和など)だった。そして「非正規雇用」システム導入の裏付けとなった経済政策のスローガンが「規制緩和」である。例えば派遣業に関しては、それまで高度専門職に限定されていた派遣の職種が、小泉政権では製造業まで緩和されている。
国民の4割を「非正規雇用」へと追い込み、それと引き換えに富を謳歌している竹中氏。自らへの批判をものともしないことで知られる竹中氏は、現在の安倍政権下でも内閣府・国家戦略特区の「特区諮問会議」議員として重用されている。しかし、そんな竹中氏を最初に重用し始めたのは、かつての首相・小泉純一郎氏なのだ。
小泉さん、あなたが進めた「構造改革」と「規制緩和」の結果、国民の4割近くが非正規雇用という不安定極まりない状態へと追い込まれたのです。今では「脱原発の旗手」といった感さえある小泉さんですが、あなたが騙されていたのは「原発」だけではありません。竹中氏にも騙されていたのです。竹中氏の任命責任はあなたにあります。今からでも遅くありません。竹中氏を叱ってやってください。
「非正規雇用」システムは「童貞」も量産する?
日本人の活気と未来、そして国力までを削ぐ「非正規雇用」システム。同システムは、いわゆる「ワーキングプア」を生み出すことで不景気にも拍車をかける。さらにその影響は、人間の“生命力”にまで及ぶようだ。
4月8日、時事通信が「30代、1割が性交渉未経験=男性は低収入と関連」と題した記事を配信した。東京大学のチームが出生動向基本調査のデータなどをもとに、日本の「性交渉未経験率」を推計し、分析したところ、25~39歳の男性では正規雇用に比べ、非正規雇用と時短勤務の人の未経験率は3.82倍になり、無職では7.87倍にも達したのだという。収入が低いほど未経験率は高かったのだそうだ。分析を担当した上田ピーター・東大客員研究員は同記事中で、
「性交渉を求めない傾向は『草食系男子』などと言われてきたが、実際には収入や雇用形態の影響で不本意ながら経験していない面があるのでは」とコメントしていた。
「非正規雇用」システムは、明白な労働基準法第一条違反であり、もはや存在自体が悪であることは、「人たるに値する生活を営むため」に必要な賃金をもらっていない人が4割近くもいるという結果からみても明らかだろう。労働者にまともな賃金を支払えない企業や自治体は、そもそも人を雇用してはいけないのである。
「非正規雇用」の割合を減らす有効策が見当たらないというなら、いっそのこと、「非正規雇用」システムの権化ともいえる労働者派遣業を「違法行為である」と定義し直すところから始めてみてはいかがだろう。日本の敗戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)最高司令官のダグラス・マッカーサーが実施したいわゆる「農地開放」が、地主制度から小作人を解き放ったのと同等のインパクトがありそうだ。
(文=明石昇二郎/ルポライター)