こうした状況になった最大の理由は、自己を過度に賛美する日本の社会風土である。
日本が輸出主導型から消費主導型に転換する必要があるというのは、30年以上も前から議論されてきたことであり、リーマンショック前の好景気の時にも「これが構造転換する最後のチャンスだ」といった指摘も一部から出されていた。だが米国のバブル景気の恩恵を受け、輸出が増えて一時的に好景気になったことから日本人は慢心し、こうした声はすべて無視された。
リーマンショック後も同じである。アベノミクスで輸出は拡大したが、あくまで円安によって見かけ上の金額が増えたにすぎない。数量ベースの輸出はほとんど伸びていないので、日本の輸出競争力が拡大したわけではないが、見かけ上の輸出の拡大によって、消費と設備投資の低迷が相殺されたのは事実である。本来ならば、この間になんとしても経済構造の転換を進めておくべきだった。
ところが国内では「日本スゴイ論」に代表される、根拠のない楽観論が支配し、またもや産業構造の転換は進まなかった。2000年のITブームの時にも似たような議論があったので、バブル崩壊後、通算して3回も構造転換のチャンスを逃したことになる。
米中交渉の合意を祈るしかないという悲しい現実
消費型経済であれば、外需に関係なく、自国の消費活動で景気を決定できるが、今の日本経済は完全に外需依存型であり、すべては米国と中国にかかっている。最大の懸念材料はやはり米中交渉の行方だろう。
米国の好景気はそろそろ頭打ちといわれるが、米国の旺盛な消費がすぐに停滞するとは考えにくい。自由貿易が維持される限り、米国経済が急激に落ち込む可能性は低いだろう。だが米中交渉が決裂し、あらゆる製品に高関税が課されるようになれば話は別である。
もし米中貿易戦争が継続した場合、最初に打撃を受けるのは中国経済であり、次に影響を受けるのは中国への輸出に依存する日本経済である。関税が継続した場合、米国の物価は上昇する可能性が高く、これが徐々に米国経済を蝕む可能性が高い。時間差はあるにせよ、最終的には米国経済も打撃を受けるだろう。
米国は今や世界最大の産油国であり、エネルギーも食料も自給できる。米国は貿易戦争が継続してもなんとかやっていけるかもしれないが、もっとも困るのが日本である。消費と設備投資の低迷に加えて、中国向け輸出も米国向け輸出もダメということになると打つ手がない。
先ほど説明した消費経済に転換するにしても、実施にはそれなりの時間がかかる。しかも、経済構造の転換には大規模な人材の再配置が必要なので、ある程度の痛みを伴う。構造転換は景気がよい時にしか実施できないと考えるべきであり(景気が悪い時にこれを実施すると、いわゆるショック療法になってしまう)、米国景気が落ち込んでしまうとその選択肢も消滅する。
なんとも情けない話だが、米中交渉が合意に達することを祈るしかないというのが、今の日本の悲しい現実である。
(文=加谷珪一/経済評論家)