近年、日本企業が経営改革や戦略策定を行う際にコンサルティング会社に依存するケースが増えているといわれている。IT専門調査会社IDC Japanの調査によると、国内コンサル業界の市場規模は2025年までに1兆2551億円にも達する見込みだという。生え抜き社員が多い日本企業の経営陣は、DXやBPRを想定した経営のノウハウが乏しく、外部のプロフェッショナルに頼らざるを得ないという事情が大きいようだ。
そんなコンサル業界のなかでも“最強のコンサル会社”といわれているのが、アクセンチュアだ。コンサルタントやエンジニアなどさまざまな職種の人材を用いて、企画の立案から導入・運用までを行う。
ここ数年の同社の規模拡大には目を見張るものがある。2021年12月時点での社員数は約1万8000人であり、過去6年で3倍以上にも増やしている。その一方、同社の台頭が日本企業のコンサル依存の現状を象徴しているという意見も聞かれる。たとえば昨年9月にAnityA 代表取締役の中野仁氏がTwitter上に投稿した以下のコメントは、大きな反響を呼んだ。
<アクセンチュアのモデルは、企画→導入→運用を丸ごと取る様になってるのでスゴい(エグい) ・企画:戦コンを投入して中期長期計画を経営から握る ・導入:ITコンを投入して実行できる仕組みをシステムと部門長から握る ・運用:システム運用・通常業務をアウトソーサーとして握る>
<(編注・追記:クライアント企業を)骨抜きにするのでは無く、既に骨抜きになっているという話は現実的だと思う。 計画はもちろん実行すらパートナー(コンサル&SIer&BPO)抜きではマトモにできない>
そこで今回は、経済評論家で百年コンサルティング代表取締役である鈴木貴博氏に、アクセンチュア急成長の理由とその有用性について、また日本企業のコンサル依存の現状について聞いた。
アクセンチュア躍進のキーワードは“IT”だった
まず、なぜアクセンチュアは“最強のコンサル会社”といわれるのだろうか。
「アクセンチュアはかつてアメリカ合衆国に存在した、大手会計事務所であるアーサー・アンダーセンのコンサルティング部門が独立して誕生しました。同事務所は上場企業の経理の監査を担当しており、多数の取引窓口を持つ企業。ですからアクセンチュアは、経営に関する総合的な知識を持ち戦略立案も行えるという、“コンサルとしてのノウハウ”と“多くの企業とのコネクション”という2つの強みを持っています。
次に、なぜここまで成長できたのかに関してですが、これは世界がIT化の時代に入ったという理由が大きいです。21世紀に入ったことで“企業が経営のアジェンダにどれだけIT視点を置けるか”が重要視され、それによって企業の戦略に差が出るような時代になってきたというわけです。そこで、会計の出身で企業システムに対する理解と知識が深いアクセンチュアは、IT化の波にうまく適合できたのでしょう」(鈴木氏)
では、他のコンサルファームにはないアクセンチュアだけの強みとはなんなのか。
「圧倒的な違いとして挙げられるのが、ITの構築部門を持っているところですね。たとえば、戦略コンサルファームは、あくまで戦略コンサルとしての知識とノウハウしかないため、ITを導入・運用という段階になると、別のITコンサルに外注しなくてはいけません。
アクセンチュアでは、自社内でITシステムなどの企画から運用まで完結できてしまいます。これには、アーサー・アンダーセンのときからの経営戦略の知見と、ITシステムを構築できる能力を獲得したアクセンチュアならではの、特殊な事情による面が大きいでしょう。こういった背景があり、アクセンチュアが“最強のコンサル会社”と呼ばれるようになっているのだと思います」(鈴木氏)
そうしたIT化の波が日本にもやって来たのがアクセンチュア台頭の理由なのだろうか。
「付け加えると、日本企業がコンサルに支払うお金が必要だと理解し、予算として組み込み始めたのも大きいです。従来は、年度計画でコンサルに予算を使う企業はほとんどなかったのですが、バブル景気に沸いていた1980年代後半を境に予算に組み込む企業が増えてきました。
より正確にいうのならば、ITコンサル予算とでもいうべきでしょうか。企業の戦略のなかでITの占める割合が増えてきて、具体的な戦略をコンサルに委託する際に支払う予算として年度計画に入れるようになったのが、アクセンチュアをはじめとするコンサル台頭の土壌になったのだと考えられます」(鈴木氏)
コンサル依存脱却のための企業の基本方針とは?
逆にアクセンチュアが苦手とする分野はあるのだろうか。
「前例がない大胆な戦略を行うには不向きであると思います。アクセンチュアが得意とするのは、あくまで通常の経営戦略に関わる分野です。たとえば、業績の少ない分野を売却して本業に力を入れたり、採用の競争力を上げるために給与体系を変更したりするなどの基本的な戦略提言はできます。
しかし、GAFA(Google、Amazon、Facebook・現Meta、Apple)が行っているような革新的な方法で生産性を上げる戦略は、アクセンチュアにはできないでしょう。Amazonのように倉庫の中をすべてロボット化して生産性を上げるなんていう方法は、コンサルではなく企業が独自で考えていくべき内容ですからね」(鈴木氏)
コンサル会社への依存度が高まると、経営陣だけでまともな戦略を打ち出すことが難しくなってしまうのではないか。
「コンサルに経営を任せていくうちに、コンサルにばかり経営のノウハウが身についてしまい、経営陣にろくに力がつかないなんていう危険なケースはいくつも考えられます。ですが、どこの企業も大きな変革を経験しているわけではないので、経営ノウハウがあるコンサルに頼るのは仕方ないかもしれません」(鈴木氏)
では企業がコンサルに依存しすぎない風土をつくるためには、どのような対策をしていくべきだろうか。
「企業がコンサルを“利用する”のだという大前提を念頭に置いて、利用する側が費用の算出やどのような戦略を行っていくのか、しっかりと考えることが大切でしょう。
また、何より社内の人材を大切にすることを心掛けなければいけません。実はコンサルファームの主力コンサルタントたちは大企業からの転職組、とりわけヤタガラス人材であることが多いんです。そういった方々は、在籍していた企業に不満があったり、つまらない仕事をさせられたりというのが嫌で転職をしてくる方が大半です。
大企業は数人の優秀な人材が抜けたからといって経営の基盤が揺らぐわけではありませんが、社内の居心地が悪くなって早期退職する人のなかのひとつの例として、優秀な人材がコンサルファームに転職するというケースは決して珍しくはありません。そういった人材がコンサルファームに流れすぎてしまうのは、その企業だけではなく日本経済にとっても損失でしょう」(鈴木氏)
最後に鈴木氏は、コンサルの力を見極めるべきだと指摘する。
「コンサルにも得意・不得意な分野はあるので、自社の経営戦略を俯瞰した際に“ここは自社でノウハウがないからコンサルを起用しよう”“ここは自社の方向性を左右する問題だから自社のみで対応しよう”という判断基準は、はっきりと持っておくことが重要です。そういった基準を曖昧にしてしまうと、コンサルへの依存度はますます高くなるばかりで、結果として自社の凋落を招く遠因になってしまうかもしれません」(鈴木氏)
経営を見つめ直す場合、アクセンチュアのようなコンサル会社への外注は業務改善につながるかもしれない。ただ、コンサル主導にならないように自社で明確なビジョンを持って戦略を打ち出すことは、それ以上に大切ということだろう。
(取材・文=文月/A4studio)