各球団とも対戦が一巡りして、前評判通り強いチームあり、戦力は充実しているはずなのになかなか勝てないチームあり、専門家の予想に反して健闘しているチームあり、話題に事欠かない2022年のプロ野球。
長いシーズンとあって、途中でケガ人が続出したり、誰も注目していなかった新星が登場したり、新外国人選手が大活躍したりなどでチーム状況は変わる。だからシーズン前の順位予想はあまりあてにはならない。それは昨シーズンの東京ヤクルトスワローズの戦いを見るに明らかだ。
専門家はほぼ全員「Bクラス予想」 スワローズはいかに日本一になったか
昨年日本一に輝いたスワローズだが、シーズン前の評論家の予想はほとんどすべてBクラス(4位以下)だった。それもそのはず2019年、2020年と、スワローズは2年連続でダントツの最下位。加えて大きな補強はなく、新外国人の実力も未知数だったため、2021年に急浮上する要素を見出すのは難しかった。
実際、阪神タイガースとの開幕3連戦で3連敗。スワローズを2020年から率いる高津臣吾監督は『一軍監督の仕事 育った彼らを勝たせたい』(光文社刊)でこんな思いをつづっている。
3連敗。これには愕然としてしまった。
秋季キャンプから、バッテリー力の整備、打撃、守備とあらゆるエリアを数パーセントずつではあるが向上させたはずだった。
ところがタイガースと戦ってみて、差は縮まるどころか、むしろ開いているのではないか――。それが本音だった。現実の厳しさを開幕早々に突きつけられた。(P26より)
2019年の59勝82敗2分
2020年の41勝69敗10分
開幕3連戦を終えた時点では、2021年も同様の成績になることが想像できた。
「レギュラー陣は十分に戦える。しかし…」
最下位だった2シーズンのヤクルトの弱点は、選手層の薄さにあった。高津監督も
“レギュラー陣は十分に戦えるだろう。しかし、複数の選手が長期離脱した場合、スワローズの弱点があぶり出されてしまう”
“認めなければならないのは「一・五軍」というか、他球団の控え選手との力量差を感じたことだ。試合終盤で、先発メンバーをダグアウトに下げると、途端に戦力差が浮き彫りになる。”
と、その点を課題視していたように、それは2021年シーズンも変わっていなかった。そこで、チームとしては「フルメンバーで戦わないと、一気に離される」という危機感のもと、選手のコンディションにはより気をつけて戦ったという。
ただ、既存の選手の実力の底上げも着実に行われていた。先発投手では2年目の奥川恭伸が台頭し、正捕手の中村悠平には「なんらかの意識革命が起きた気がする。(リードが)しつこくなったのだ」(高津監督)。リリーフ陣も整備され、分厚くなった。もう一つのヤクルトの弱点であった「バッテリー力」については、着実に改善されつつあった。
「魔法」のようなものはないし、どれかひとつの湯素が飛び抜けて成長したから優勝出来たわけでもない。すべてのエリアで数パーセント、ほんのわずかな向上、改善が有機的に結びついて勝ちにつながった。(P11より)
この言葉通り、開幕戦以降のスワローズは大きな連敗もなく戦いを進めていった。中でも選手たちのマインドセットに大きな変化をもたらした転機となったのは、過去10年間で7度日本一に輝いているソフトバンク・ホークスにセ・パ交流戦で3連勝したことだったという。
ここで、高津監督は「今年のスワローズは戦える」と確信した。鬼門とされていた夏場以降も、過去2年のように選手層の薄さが顕在化することもなく、僅差で阪神タイガースを振り切ってリーグ優勝。クライマックスシリーズ、日本シリーズも勝ち進み、日本一となった。
◇
スワローズは何が変わったのだろうか。
技術の向上には時間がかかるし、最下位に終わったチームのメンタルは勝つことで変化させるしかない。それでもすぐに変えられることとして、高津監督は「選手がプレーしやすく、球場に行くのが楽しみになる雰囲気づくり」を挙げている。
勝っても負けても活気のあるチーム、楽しいチームに。しょんぼりしていては好転する事態も好転しない。高津監督のチーム作りはそんな考え方が土台になっている。
2021年のスワローズの戦いを振り返る本書は、野球ファンだけでなく、組織をマネジメントする立場の人にとっても学びが多いはず。業績の上がらないチームをどうテコ入れするか。一体感のあるチームをいかに作っていくか。高津監督の言葉はそんな問いへのヒントとなるだろう。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。