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たかぎこういち「“イケてる大先輩”が一刀両断」

アパレル業界、なぜ今、販売員の募集が急拡大?求められる即戦力&複雑化するスキル

文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表/東京モード学園講師
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アパレルショップ(「gettyimages」より)

 2020年春に始まったコロナ禍がアパレル業界の大きな構造変革を進め、希望退職者募集、商業施設での直営店の大量閉鎖、百貨店での売場縮小、展開ブランド統合などで失業の嵐が吹き荒れた。

 パーソナルキャリアの発表によれば、アパレル・ファッション業界の転職市場では21年10~12月の新規求人数が、コロナ禍前の19年4~6月を9.1%上回った。同期を上回るのはコロナ禍直撃以降初めてである。その間に急成長したEC向けのIT人材確保は一巡し、販売増に向けた人材確保が強化され始めている。求人数をサービス登録者数で割る転職求人倍率は、業界全体で1.76倍と、21年7~9月から0.44ポイント増えた。本稿では、転職者と就職希望者の両面から業界の今後を考えてみたい。

1.新卒採用状況、転職者状況のまだら模様

 まず、転職市場から見ていきたい。コロナワクチン接種が進み、3月21日をもって全都道府県のまん延防止等重点措置が終了した。多くの企業がオミクロン株感染拡大の影響は軽微とみて、市場の反動も含めた回復観測を持ち始めている。

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『アパレル業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(たかぎこういち/技術評論社)

 アパレル・ファッション業界に特化したパーソナルキャリアの転職サービス「クリーデンス」の情報を見てみよう。20年4~6月の新規求人数は、コロナ禍直撃前の19年同期と比較すると37%減の落込みとなった。20年10月以降も前年同期比約10%減が続いた。しかし、コロナ禍によるEC市場の伸びにより、D2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー、消費者直接販売)業種がネット空間だけでなくリアルショップ出店に意欲を見せた。商業施設内でのファッション系店舗大量退店、路面での大量閉店により出店条件が従来と大きく変わったこともあり、魅力的なロケーションを確保できる可能性が出てきた。ネットではできない試着や、店員と顧客のリアルなコミュニケーション、潜在顧客への認知向上目的の出店が相次いだ。

 さらに都心と違い、地方のオーナーが運営するセレクトショップやデザイナーブランド店はコロナ禍の影響をほとんど受けなかった。根強い顧客基盤のお陰である。流動客が主要客となる都心ターミナル型セレクトショップとは対照的であった。

 ラグジュアリィブランドも売り上げが伸長し、派遣社員から正規社員への変更、販売代行業者への業務委託から直営店への切替、より良いロケーションへの新規出店、既存店の売場面積拡大などが相次ぎ、販売員の募集は急拡大している。

 一方、23年度新卒採用の状況をみてみると、合同就職説明会の出展企業数は減少傾向にある。マイナビとMORIパーソネル・クリエイツが共同運営する「FB(ファッションビジネス)就職セミナー」は、前年同様に東京に絞って対面で開催されたが、出展企業数は感染拡大を危惧し減少した。採用計画が固まらない企業も少なくなく、就活生にとっては不透明な状況が続いている。

2.コロナ禍後に業界から求められる人材

 業界が求める人材も、コロナ禍以前とは大きな変化が見てとれる。コロナ禍前までの企業が新卒社員に求めたのは、明朗さや素直さ、前向きなコミュニケーション能力であった。その若い人材を自社内で業務を通して教育する前提での採用であったが、今、企業側が新卒社員に求めているのは、即戦力である。具体的には、店頭での販売力に加え、動画制作・編集能力までもが必須である。以前よりインターン時期は長期化し、就職時には現場でも即戦力が求められている。自身や同僚をモデルとして販売につながるネットでの画像・映像制作、配信、顧客とのコミュニケーションまで求められている。大きな変化が現実化している。

 転職者も同様で、即戦力となるスキルと業務経験がどれだけあるのかが問われており、転職希望者は自身の得意なスキルを充分に把握して転職先の情報を幅広く収集する必要がある。

まとめ

 人材の移動は、明確に業界各社の業績の勝敗や新業態の誕生を映す。百貨店系アパレル企業は残念ながら人員削減が続く一方で、大手SPA企業は積極的な採用姿勢が目立つ。雑貨、ライフスタイル系企業はコスメなどの売場拡大で求人数は増加傾向にある。サスティナビリティの浸透、価格優位性、リユース(二次流通)市場の成長は、新しい人材を必要としている。定額アパレル貸出サービスは先行企業の成長も著しい。新規参入した大丸松坂屋百貨店が運営する「AnotherADdress(アナザーアドレス)」が、想定人数の6.7倍もの会員数を集めた。予想以上の急成長も、販売員経験を活かしたスタイリング業務を拡大させている。

 人々は衣服を日常で必要とし、服飾文化の素晴らしさは豊かさの象徴である。大きな転換期に直面するアパレル・ファッション業界において、新しい人材像の求人が増大するのは間違いないであろう。まだ見ぬ輝く未来が、この混乱の先に必ず生まれてくる。

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『アパレルは死んだのか』(たかぎこういち/総合法令出版)

たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表/東京モード学園講師

たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表/東京モード学園講師

カギ&アソシエイツ 代表/スタイルアドバイザー/コンサルタント(ファッション視点からの市場創造)/東京モード学園ファッションビジネス学科講師

1952年、大阪生まれ。奈良県立大学中退。大阪で服飾雑貨卸業を起業。22歳で単身渡欧後法人化代表取締役就任、1997年香港に渡り1998年、現フォリフォリジャパングループとの合併会社取締役に就任。オロビアンコ、マンハッタンポーテージ、リモワ、アニヤ・ハインドマーチなど海外ファッションブランドをプロデュースし、日本市場の成功に導く。また、第1回東京ガールズコレクションに参画。米国の有名ファッション展示会「d&a」の日本窓口なども務めた。時代に沿ったブランディング、MD手法には定評がある。2013年にファッションビジネスのコンサルティング会社「タカギ&アソシエイツ」を設立。著書に『オロビアンコの奇跡』『超入門 日・英・中 接客会話攻略ハンドブック(共著)』(共に繊研新聞社)、『一流に見える服装術』(日本実業出版社)、『アパレルは死んだのか』(総合法令出版)『アパレル業界のしくみとビジネスがしっかりわかる教科書』(技術評論社)などがある。
コンサルタントのタカギ&アソシエイツ

Instagram:@kohichi.takagi

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