「今、財務的にも保険販売でも勢いのあるのは明治安田生命保険。にもかかわらず日本生命保険や第一生命保険が上位の時点で、いかにも学生のランキングですね」と、保険業界に詳しいアナリストは語る。
既存の老舗生保に逆風が吹く中でも、最も危機感をあらわにするのは、国内の生保会社単体では唯一、東証一部に上場(持ち株会社等は除く)している第一生命保険だろう。株価は5月中旬に17万1000円を付け、上場来高値を更新した。ただ、上場2日目に付けた上場来高値を更新するまで3年1カ月も低迷を続けたことからもわかるように、アベノミクスの追い風頼りの面は否定できない。
「高値更新も、長期金利が上昇して国債の運用利回りが高まるとの観測が広まったため。第一が他社に比べて、特別優れているというわけではない。実際、現在の株価は13万9000円(9月5日現在)前後」と厳しい。
●苦境続く第一生命
保険業界は護送船団方式の名残が強く、「商品のパクリ合いは日常茶飯事」(業界関係者)。つまり、差別化が難しいビジネスマーケットといえる。金融機関全体が低迷したためとの見方もできるが、第一生命保険にかつての勢いがないのは明らかだ。売上高に相当する保険料収入では、12年度は日本生命保険、明治安田生命保険に次ぎ3位。国内2位の座を失って久しい。
生命保険会社は少子高齢化で事業環境は大きく変わるが、縮小均衡の一途というわけではない。高齢化を背景に医療保険などは販売を伸ばしており、海外各社は日本での事業拡大の機会をうかがう。国内勢でも後発のソニー生命保険やインターネット生命保険専業のライフネット生命保険が台頭。複数社の保険商品を取り扱う乗り合いの保険ショップも増えている。
「販路の多様化で、国内大手にとって主力となる生保レディー経由の契約比率が今後下がるのは確実。ただ、『生保のおばちゃん』を多く抱える老舗大手は人員を大幅に減らすわけにはいかない」(保険ショップ幹部)とジレンマを抱える。こうした状況に対して、既存生保の幹部は「保険は受け身の製品。対面で丁寧に説明してようやく売れる製品。ネットや保険ショップの広がりは限定的」と自信を崩さない。
●くすぶる大手の経営統合観測
ただ、焦りは隠せないのか、水面下での動きは活発化している。第一生命保険社員は「他社との経営統合の話が浮上しているらしい」とささやく。「最近、破談になったが住友生命保険と交渉していたとの情報が社内で広がっている」という。実際、住友生命社員も「役員(の比率)をどうするかでもめて話が流れたらしい」と証言する。真偽は不明だが、こうした情報が流れること自体、業界の未来に暗雲が立ちこめている証左だろう。
生命保険は、死亡保険など運用が数十年になる。そのためシステム運用が重要になるが、統合となると異なるシステムを併用するため、手間もコストも膨大にふくらむ。他業界と違って生保の統廃合が進まないのは、システム負担が重いためとの見方が大きい。こうした中で統合に動かざるをえなかったことが、老舗生保の未来の厳しさを物語る。住友生命保険も、振り返ればソニー生命の足音が近づく。提携関係にある三井生命保険は再建途上にあり、「のみ込んでもまったくこちらにメリットがない」(住友生命保険社員)。大手同士の合併のほうが手間はかかるが、間接費の大きな圧縮を望めるので、第一生命保険との交渉に動いても不思議はない。
人口減少以外でも、保険業界を取り巻く環境は大きな変化を迎える。日本郵政がアフラックと提携を拡大。郵便局でアフラックのがん保険の販売取扱局を2万カ所に増やす。がん保険は規制の関係で米系、特にアフラックが強い分野。競合他社は「アフラックはすでに国内で7割のシェアを握るので、ここを強化されても我々はたいした影響はない。ただ、がん保険以外の商品を公的ネットワークである郵便局で売り出されたら、各社への影響は計り知れない」と懸念する。
日本郵政は日本生命保険とがん保険の開発で提携関係にあり、日本生命は日本郵政の公的ネットワークを活用する野望を秘めていたが、TPP交渉の影響でアフラックに横取りされた格好だ。生保各社は海外に活路を見いだそうとするが、成長が見込めるアジア圏は出資規制が立ちはだかる。
内憂外患の国内老舗生保。「超安定」とうらやましがられる保険業界の門を、果たして本当に学生はたたいてよいのだろうか。
(文=黒羽米雄/金融ジャーナリスト)