ユニクロは本当にブラックか?表層的なブラック企業批判の弊害、真の悪徳企業を延命
「現場配属の店舗スタッフから抜擢されて、本社勤務になった正社員」から見ても、ブラックかもしれない。早く帰るように奨励されはするものの、終わり切らない仕事。朝は7時から始業のためゆっくりもできず、仕事以外に不得意な英語の勉強もしなければならない。創造的な企画業務に携われると思いきや、会議のための会議が続き、なにかミスをして責任を問われる同僚も、明日は我が身な環境……。
では、「アルバイト」にとってはどうだろう。目的意識次第では、けっこういい会社かもしれない。
仕事は忙しいが、キッチリ残業代もつくし、研修やマニュアルも整っているので、社会性を身につけるにはピッタリの環境といえるだろう。残業しても終わり切らない仕事は正社員がこなしてくれるから心配いらない。
「成長意欲の高い、都心部繁盛店の店長」にとっても、いい会社と言えるかもしれない。
確かにやるべきことは怒涛のように押し寄せるが、同店の売上規模から考えると「年商1億円の中小企業を経営している」のと同じ感覚だ。そう思えばなんでも勉強になる。繁盛店なら予算に余裕もできるので、アルバイトを効率的に使い、社員の負担を減らしてバランス良い組織をつくっていくこともできよう。
「取引業者」にとっては、白黒半々といったところか。大量発注の恩恵を受ける一方で、厳しいコスト管理と品質基準に苦労することになる。ただ、「顧客からの要求に応える」という点ではあらゆる企業の宿命ではあるが。
「経営者」や「株主」にとっては、理想的な企業といえる。従業員や業者にとってブラックに見える「ワンマン」とか「厳しさ」は、経営側の立場から見れば立派な「リーダーシップ」「労務管理」「品質管理」「コスト管理」だ。これらを徹底することで高い売上高と利益率(同社の粗利益率は業界平均の倍)を確保している企業。ぜひ見習いたいとしている経営者は多いし、株主にしてみても安心できる投資先であろう。
この例からもおわかりの通り、「誰から見るか?」という視点次第で、ひとつの企業であっても、その評価は真逆になり得る。価値観を共有しない者との対話は、ずっと平行線のままとなってしまうのだ。
本特集においては、このような「立ち位置の違いによる評価」も踏まえたかたちで、多面的な視点からの考察をお伝えしたいと考えている。
(文=新田 龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト)