あの山崎製パンの「ミニスナックゴールド」が、実はすべて職人が手巻きしているということをご存じだろうか。
“ミニ”と冠せられているにもかかわらず実際は大ぶりな円盤状の菓子パンで、甘いアイシングが線状にかけられており、渦を巻いたデニッシュ生地はサクッとした食感としっとりした食感を両立。価格、ボリューム、美味しさ、どれをとっても最高の菓子パンとしてファンから支持を集める人気商品である。今年で発売から53年が経過したロングセラーのため、おやつや食事として食べたことがある人は多いだろう。
そんなミニスナックゴールドだが、あるTwitterユーザーが4月上旬に投稿したツイートが衝撃的だと話題になっていた。そのツイートによると、なんと本品は熟練のスタッフによって一つひとつ丁寧に手巻きで成形されているというのだ。
パン専門店ならいざ知らず、全国のスーパーやコンビニで並ぶような商品を手作業で成形しているとは驚きである。一体どのように製造しているのだろうか。そこで今回は山崎製パンの担当者に取材を行い、真相を教えてもらった。
手巻きで製造しているのは本当なのか
まずさっそく本題だが、ミニスナックゴールドをすべて手巻きで成形しているのは本当なのだろうか。
「はい、実際にすべて人の手によって成型しています。理由としては、機械ではミニスナックゴールドの成形に必要である複雑な動きができないからです。ミニスナックゴールドは渦巻き形に成形する商品なのですが、成形する際に隙間なく巻き付けてしまうと、生地が発酵した際に上に膨らんでしまうため、ボリュームが大きくなってしまいます。
また巻き付ける際に生地と生地が重なってしまうと、火の通りが悪くなってしまい、食感もクチャつきやすくなってしまうんです。そのため、成形する段階ではわざと隙間を作り、焼き上げた後のボリュームと食感を調整する必要があります。このわざと隙間を作るという微妙な調整が機械だとできないため、発売以来ずっと手巻きで製造しているんです
そして、手巻きをする際のポイントもいくつかあります。ミニスナックゴールドはあえて隙間をつくって成形する必要があるため、スタッフには生地を巻きつけるというより、生地を上から降ろして隙間を作りつつ成形するよう指導しています」(山崎製パン担当者)
ミニスナックゴールドといえば円盤状が特徴だが、成形するだけでもこれほどの苦労があったとは驚きである。
「ミニスナックゴールドは、ひとりで1時間あたり約1000個を成形できます。現在、全国にある14の工場で生産しており、1日平均・約8万個を出荷しています」(同)
続いて、味のクオリティを保つこだわりについて教えてくれた。
「工場単位で日々製品に問題がないかは確認していますが、品質へのこだわりとして製品審査を毎月行っております。これは全国で製造しているヒット商品とその生産担当者に集まっていただき、一定の基準をもとに審査し、品質の統一化を図るという取り組みです。具体的には、各商品の製造マニュアル通りに製造し、マニュアル通りに意図した製品になっているかどうかを確認しています」(同)
また実はミニスナックゴールドの食感は変化しているという。
「ミニスナックゴールドは、時代とともにお客様の趣向に合わせて食感を変化させています。たとえば、昔のミニスナックゴールドは、ひきのある食感だったのですが、年々ソフトなさっくりとした食感を求めるお客様が増えてきたこともあり、現在の食感になりました」(同)
ずっと変わらぬ製法で作り続けているわけではなく、ファンのためにマイナーチェンジし続けているということか。
実は東は左巻き、西は右巻きだった
年月を重ねて変化し続けるミニスナックゴールドだが、およそ半世紀前、どのような経緯で発売に至ったのかも気になるところである。
「本商品は菓子パンのなかで、“金メダル級にヒットする”という願いを込めて名付けられたパンです。当初は関東で『スナックゴールド』という商品名で発売され、続いて西日本で少しサイズを小さくしたバージョンの『ミニスナックゴールド』として販売がスタートしました。これがかなりヒットし、全国展開しようとした際にサイズをすべてスナックゴールド基準で統一して、商品名はミニスナックゴールドとして発売されたのです」
サイズは大きめのスナックゴールドに統一されたが、なぜか商品名に“ミニ”が残ったそうだ。
「実は商品名に“ミニ”が付いたままの理由は定かではありません。実際に当時の社内でも“なんでこんな大きなパンなのにミニなんだ!”という声があったそうです。一説では当時の方々が言葉の響きだったり、実際の大きさと名前のギャップが良かったりしたなどの理由で、“ミニ”をあえて残したとも言われています」(同)
実際にネット上でも“このサイズは全然ミニじゃない”という声で話題になることも多い。もしこの説が本当であれば、当時の社員の目論見は見事に当たったと言えるだろう。
この他にもミニスナックゴールドの秘密はあるのだろうか。
「実はミニスナックゴールドは、横浜の工場を起点に東エリアと西エリアで巻く向きが異なっています。実は東は左巻き、西は右巻きで製造されているんです。
このように東と西で巻き方が変わった理由についてですが、一説には東のほうでパン製造の指導をしていた方が左利きだったからではないか、と言われています。そして、西のほうで製造開始する際に、一般的には右利きのほうが割合的に多いという事情により、右巻きで成形されるようになり、それが現在まで続いているのだと考えられます」(同)
職人がいなくなると生産終了になる?
ミニスナックゴールドはこだわり抜かれた手巻き製法によって作られていることがわかったが、山崎製パンの商品にはほかにも人の手による手巻きのものがあるという。
「たとえば、円錐型の菓子パンである『ミルクチョコクリームコロネ』は、機械では生地が重なってしまう恐れがあるので、スタッフが一つひとつ綺麗に手巻きしています。また白いソフトデニッシュ生地に板チョコが挟まれた『ホワイトデニッシュショコラ』も、手巻きで製造しています。こちらはチョコを起点にして生地を折りたたむのですが、機械ではなく人の力加減で成型しないとあの形状にならないんです」(同)
ミニスナックゴールド以外にも手作り商品はあるようだ。ところで手巻きする職人がいなくなってしまえば、ミニスナックゴールドは販売終了になってしまうのではないか。
「職人がいなくなることはありえませんからご安心ください。なぜなら、新入社員がミニスナックゴールドを製造するラインに配属された際に、まずはこの製法を教えられるからです。数ある弊社の商品のなかでも特別な技術を必要とするのがミニスナックゴールドですので、ひとりでできるまで先輩社員が徹底的に教えます。この先輩が後輩に教えるという流れは弊社の伝統になっているため、途切れることはないです」(同)
最後に今後ミニスナックゴールドをどのような商品にしていきたいか、その心中を伺ってみた。
「“金メダル級”というフレーズを授かった商品ですので、『ランチパック』や『まるごとソーセージ』のような弊社の看板商品にも負けないように育てていきたいと考えています」(同)
発売から半世紀以上経つミニスナックゴールドはその製法、歴史からして非常にユニークな商品であると言えるだろう。こだわりの手巻き製法だからこそ生まれるこの味を、いつまでも楽しめるように山崎製パンには守り続けていただきたい。
(取材・文=文月/A4studio)