「今まで大した成績を残さず、あーあって感じ」
「陰で努力し、あまり頑張ってない様に見えてやはり頑張ってない」
「症状」と題した「賞状を模した書状」を、2018年に自殺した自社の40代男性社員に渡していたことが発覚した青森県八戸市の住宅会社「ハシモトホーム」(橋本吉徳社長)。男性遺族が20日、パワハラや長時間労働が自殺につながったとして、会社などに8000万円の損害賠償を求め、青森地裁に提訴したのだという。共同通信が記事『「賞状」で自殺社員を会社が侮辱 パワハラで勤務先を提訴』、河北新報は記事『新年会で「症状」手渡す 男性社員の自殺「パワハラ原因」遺族が住宅建築会社提訴 青森地裁』でそれぞれ伝えた。
河北新報の報道によると、男性は2011年に入社。注文住宅の営業を担当し、18年1月ごろ、上司の男性課長から携帯電話で「おまえバカか」といった内容のショートメールが複数回送られたという。
また同月開かれた会社の新年会の余興として、営業成績をたたえた賞状形式の「症状」が交付され、誹謗(ひぼう)中傷を受けた。余興は同課長が企画し、文面も考案したという。
男性は翌2月、青森市の自宅に駐車していた自家用車内で自殺した。青森労働基準監督署は20年12月、上司のパワハラで重度のうつ病を発症し、自殺の原因となったとして労災認定したという。
なお共同通信は、件の「症状」に関し、会社側が「表彰の一環と説明した」などと報じている。
原子力施設建設計画暗礁→ハウスメーカーにも影響?
青森県むつ市の建設関連事業者は語る。
「ハシモトホームさんは、現社長の父上である貞夫さんが一代で立ち上げました。大手住宅メーカーの営業マンだった貞夫さんは“事業者本位の家づくり”に疑問を抱いたそうで、“お客様本位の家づくり”をしたいと思いたって独立したんだそうです。
それから青森・岩手・秋田の北東北3県に12拠点を展開し、寒冷地用断熱材を用いた2×4工法を積極的に取り入れたことで売上を伸ばしましました。その勢いは強く、12年連続で青森県内の戸建住宅着工棟数第1位を獲得したほどです。
そうやって貞夫さんが会社を大きくしていった時期はちょうど、下北半島を中心とする原子力計画や国家石油備蓄基地の整備、むつ小川原港開発計画など国家プロジェクトが次々に決まったころでしたね。プロジェクトのため、全国からたくさんの人が青森に移り住んだり、若い人がそうした国家プロジェクト関連の仕事を通じて、家をたらしく買ったりした時代でした。北海道・東北新幹線の新青森駅開業(2010年12月4日)までが、そうした動きのひとつの区切りだったのではないでしょうか。
現社長は一時、福島に修行に出た後に貞夫さんと代替わりしたはずです。
今は全国的なコロナ禍の不況もありますが、それ以上に前述の原子力関連プロジェクトが止まったことの影響は大きかったと思います。東京電力福島第1原発事故以降、東通村の東京電力の東通原発、大間町の電源開発大間原発、六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場など一連の国家プロジェクトが暗礁に乗り上げました。原発や核施設を稼働させるには、その運用者、メンテナンス要員など膨大な人員が必要です。当然、各原子力プラントを稼働させるためには、そこで働く人々のための多くの住宅が必要となるわけです。
昔は各原子力施設の周囲には国の補助金を受けた県や地元自治体による宅地造成計画が組まれ、県内ハウスメーカー各社が分譲住宅をこぞって作ろうしたものですが……。正直、今はそっち方面で食っていくのは難しく、かといって青森県内の若年人口は減少の一途で、新規に家を求める顧客を確保するのもまた厳しいのです。
かつては似たような賞状を社員に配っても、もう少し和やかな忘新年会だったのではないでしょうか。今回のパワハラ問題の背景に、ハシモトハウスさん社内の“焦り”や“苦境”が見受けられる気がします」
アルハラ・パワハラの風土がまだ残っている?
一方、青森市出身で、地元報道機関に2010年代まで勤務していた首都圏在住の女性ライターは次のように語る。
「仕事柄、地元企業と交流を深めていました。ハシモトホームさんの幹部も取材したことはあります。青森は津軽、南部、下北を問わず、飲み会は“激しく”、良い意味でも悪い意味でも“昭和”です。
もちろんおとなしく飲む人もいるのですが……。首都圏などでは“アルハラやパワハラの温床”として次々に禁止になっている『忘年会』『新年会』の『かくし芸』もまだまだ各企業に残っていましたね。私が10年前に担当していたある公官庁ですら、忘年会のかくし芸は必須でした。特に入社年次の若い社員は、自社も他社も関係なく、いろいろな意味で恥をかかされます。女性記者が露出の多いコスプレをさせられて、歌わされるなんてこともありましたね。
今は変わっているといいのですが」
(文=Business Journal編集部)