カジュアルブランド「アースミュージック&エコロジー」などを展開するストライプインターナショナル(岡山市、非上場)の全株式を国内投資ファンド、ティーキャピタルパートナーズ(TCAP、東京都千代田区)が取得した。取得額は非公表だが、有利子負債を含めて300億円と一部で報じられている。ストライプを創業した石川康晴氏は筆頭株主でなくなる。
ストライプの株式はこれまで石川氏が関連会社などの名義のものを含めて8割を保有してきた。TCAPは新設する特別目的会社(SPC)を通じ、石川氏や金融機関・取引先企業などの既存株主からストライプの全株を買い取る。その後、石川氏がSPCに出資し、主要株主として残るとされている。立花隆央社長と張替勉専務は現職にとどまり、TCAPから過半数の非常勤取締役を受け入れる。ファンドの傘下に入ることで事業変革のスピードを速め、目標に掲げてきた新規株式公開を目指す。3~5年後の株式上場になるとみられている。
ストライプは主力のアースミュージック&エコロジーのほかに、「グリーンパークス」「アメリカンホリック」など複数のカジュアル衣料のブランドを持ち、国内外に約1500店を展開するアパレル大手だ。連結売上高は1000億円を超えていたが、決算公告によるとコロナ下の2021年1月期の単体業績は売上高が前期比24%減の648億円、営業損失段階で23億円の赤字、純損失が103億円だった。
新型コロナウイルスの感染拡大前に株式上場を準備していたが、コロナ後は来客数が大きく落ち込み、業績の悪化を受けて20年以降は不採算事業の整理を加速させた。複数のブランドをやめたほか、20年6月、中国から撤退。22年1月末には東京・渋谷区のホテルに併設の旗艦店「ホテルコエトーキョー」を閉店。2月末にはソフトバンクとの合弁で運営するECサイト「ストライプデパートメント」を閉鎖した。
TCAPの前身は東京海上日動火災保険の100%子会社、東京海上キャピタルである。19年にMBO(経営陣が参加する買収)を実施して独立した。アパレル企業では子供服「ミキハウス」ブランドで知られる三起商行(大阪府八尾市)などに投資した実績がある。
石川氏はファンド事業家に転身か
ストライプは1994年、石川氏が岡山市内にセレクトショップを開いたのが始まりだ。翌95年、クロスカンパニー(現ストライプインターナショナル)を設立。99年、製造から小売りまで一貫して行うSPA業態に転換し、自社ブランドのアースミュージック&エコロジーのヒットで急成長した。「第2のユニクロ」と期待された時期もあったほどだ。
2020年、激震に見舞われる。3月5日付朝日新聞が1面で石川康晴氏のセクハラ問題を大々的に報じた。上場会社でもないストライプインターナショナルの創業社長のセクハラが、これほど大きく取り上げられたのは、石川氏が内閣府男女共同参画会議議員という“公人”であったためだ。朝日記事によれば、石川氏が複数の女性社員やスタッフへのセクハラ行為をしたとして、18年12月、同社で臨時査問会が開かれ、厳重注意を受けていたという。報道を受け石川氏は3月6日、社長を辞任。9日には内閣府の男女共同参画会議の議員を辞職した。
当時、社外取締役に有名な経済人が名を連ねていた。18年8月、三越伊勢丹ホールディングス(HD)元社長で日本空港ビルデング副社長の大西洋氏を社外取締役に迎えた。大西氏の就任で、社外取締役はソニー元CEOの出井伸之氏、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長を退官し資生堂の元副社長を務めた岩田喜美枝氏と合わせて3人となった。株式上場に向けコーポレートガバナンスの強化が狙いだった。経営トップのセクハラ事件を受け、岩田氏は19年4月に社外取締役を辞任、出井氏と大西氏も20年4月に辞めた。
石川氏は社長辞任後は経営に関与していないという。地元の山陽新聞デジタル版(3月15日付)は、石川氏が新会社を設立して投資ファンド事業に乗り出したと報じた。社名はイシカワホールディングス(HD)。石川氏が社長兼CEOを務める。個人資産を元手に、小売りやサービスで全国展開の意欲を持つ個人や企業に投資。ストライプでの経験を生かし、事業を拡大させ、新規株式公開に結びつけ大きな果実を得るとしている。
21年5月のイシカワHDの設立以来、これまでパン製造販売のメルシー(岡山市)、高齢者向けフィットネス施設運営のウエストライングループ(同)、ブドウ生産やワイン醸造のテッタ(岡山県新見市)の3社に出資。3社とも9割超の株式を石川氏が取得した。メルシーとウエストライングループは東京、岡山を皮切りに店舗網を広げ、テッタは海外への販路を拡大していく。
石川氏は保有するストライプの全株式をTCAPの特別目的会社に売却したが、SPCに再出資するかたちで主要な個人株主として残る。山陽新聞によれば、石川氏はストライプの経営には参加せずイシカワHDの事業に集中する見通しだという。
(文=Business Journal編集部)