ディー・エヌ・エー(DeNA)が医療スタートアップのアルム(東京都渋谷区)の株式を段階的に取得し子会社にする。アルムは医師らがスマートフォンなどで治療情報を共有できるシステムを運用している。
まず2022年7月、アルムの第三者割当増資を引き受け、37.3%の株式を取得し、持ち分法適用会社とする。その後、アルムがベンチャーキャピタルなど既存株主から自己株式の取得を進める。そのうえで60.3%(1月末時点)を保有する社長の坂野哲平氏からDeNAが株式を追加取得。最終的に普通株式の57.5%を保有し、子会社にする。DeNAは総額で292億5400万円を投下することになる。
アルムの株主としてSOMPOホールディングス(HD)の子会社(1月末時点で5.1%を保有)や三井物産(同3.2%)が残るほか、新たに西武HDが株主に加わる。DeNAの大井潤取締役がアルムの代表取締役に就任し、アルム代表取締役社長の坂野氏と共同代表になる。
坂野氏(46)は小学校から高校まで米国で育った帰国子女。2001年、早稲田大学理工学部卒業と同時にスキルアップジャパンを設立。医療ICT(情報通信技術)に本格参入した。15年、アルムに商号を変更した。
アルムの医療関係者間のコミュニケーションアプリ「Join」は16年、日本で初めて保険診療が適用されるソフトウエアと認定され、地域医療の要である中核病院をはじめとした470の医療機関に導入された。海外でも約30カ国で展開し、アルムは救急医療のデファクトプラットフォームになりつつある、としている。
先行投資の負担から赤字経営が続き、20年3月期は10億4000万円の赤字、21年同期は4億9600万円の最終赤字を計上。決算期を変更した21年8月期(5カ月決算)の連結売上高は10億2900万円で純損益は10億6000万円の赤字だった。DeNAの傘下に入り遠隔診療を支援するシステムを強化する。遠隔診療ではSOMPOHDの子会社と、グローバル展開は三井物産と、スマートシティの分野は新たにパートナーに加わる西武HDと協力し、成長を加速させる考えだ。
アルムのM&Aに関して「高値買い」との指摘もあり、DeNAの株価が下落したことがあった。6月28日の終値は1860円。2月の安値、5月の高値のちょうど中間の株価水準だ。
保有する任天堂株式の半数弱を496億円で売却
DeNAは売上高(1309億円)の6割弱を占めるゲーム事業で苦戦している。22年3月期の同事業の売上高にあたる売上収益(国際会計基準)は前期比18%減の747億円、営業利益は39%減の116億円だった。世界的に人気のあるコンテンツを持つ任天堂などとの連携を強化するほか、開発体制を見直し、コスト削減に着手した。
ヘルスケア事業の強化は今後の成長に向けた多角化の一環と位置付けている。22年3月期のヘルスケア事業の売上収益は30億円と全体の2%で、営業損益は6億円の赤字。オンライン診療の普及などで医療分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)の需要が高まるとみている。4月には、診療データベース企業のメディカル・データ・ビジョン(MDV、プライム上場)とヘルスケア事業で協業することで合意した。
MDVは22年3月期末時点で3940万人分の患者の、匿名化された診療データを保有している。20年4月からは健康保険組合のデータ収集を開始し、769万人分を持っている。DeNAは、子会社が健診データなどを閲覧できるアプリ「kencom」を運用。100団体480万人に利用されている。MDVとDeNAの子会社が持つ医療データを組み合わせることで競争力を高める。
DeNAは6月26日、定時株主総会を開催した。議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、南場智子会長と岡村信悟社長の再任に反対を推奨した。政策保有株の解消が不十分というのが反対の理由だ。
DeNAは5月11日、保有する任天堂株式のうち半数弱(発行済み株式の0.67%)を496億円で売却した。「政策保有株式の見直し、資産効率を向上させる」と説明した。任天堂とDeNAは15年、任天堂の故・岩田聡社長とDeNAの守安功社長の時代に資本・業務提携し、株式を相互に持ち合った。
22年3月末時点で任天堂はDeNA株式の12.72%を保有する第3位の株主、DeNAは任天堂株の1.50%を保有する第9位の株主だった。株式売却後も関係は維持するとしている。議決権行使助言会社ISSの“圧力”がDeNAを政策保有株式の売却に向かわせたといえよう。
(文=Business Journal編集部)