1月4日、ミクシィがロゴの刷新を発表した。“ミクシィ”と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、日本における元祖SNSとも言える「mixi」だろう。しかし、その貴重な国産SNSは、10年以上前にFacebookやTwitterという黒船に取って代わられ衰退していった。
ミクシィは現在、“モンスト”の愛称で知られるスマホゲーム「モンスターストライク」をはじめとする、デジタルエンターテインメントの事業で成功している。ほかにもスポーツ観戦ができる飲食店を探すサービス「Fansta」や、サロン検索・予約に特化したサービス「minimo」など幅広く事業を展開しており、デジタルエンターテインメント事業の売上が全体の8割以上を占めるという。
2020年には東証一部に上場し、今年に入ってロゴをリニューアル。これらの動きからは会社としての成長意欲も感じ取れるのだが、SNSのmixiからモンストとあまりにも大きな変貌を遂げているため、今後どんな会社を目指していくつもりなのか、見当がつかないという声も多い。
そこで、今回は成蹊大学客員教授でITジャーナリストの高橋暁子氏に、ミクシィの“これまで”と“これから”について話を聞いた。
最大の過ちによりユーザーが一気に流れた?
まず、ミクシィの歴史から振り返ってみよう。同社の前身、イー・マーキュリーは求人サイトやプレスリリース配信を代行するサイトの運営を行っていた。そんななか、2004年にmixiの運営を開始したことで、社名をミクシィへ変更したという経緯がある。この頃、SNSは世界や日本でどんな存在だったのだろうか。
「世界的にはmixi以前にも『Orkut』や『Friendster』というSNSがあったので、IT業界に身を置く人や新しいもの好きの人など、一部の人には知られていました。でも、一般の人にはまず、その存在自体が認知されていなかったと思います。
そういった時代にmixiのサービスが始まって、いち早く使い始めた人たちの間ではすぐに評判になっていましたね。当時、mixiはユーザーからの招待がないと登録できないうえ、検索で知らない人のページに飛ぶこともできませんでした。交流できるのは自分の友達か、友達の友達くらい。このシステムのおかげでmixiはすごく閉塞的で楽しい世界だったんです。そんな独自の風土が当時、まだインターネットへの警戒心が強かった日本でもウケ始め、ミクシィは2006年にマザーズに上場しました」(高橋氏)
だが、この頃からmixiの方針が揺らぎ、風向きが変わってきたという。
「ユーザーが一気に増え始めたこの時期、mixiはさらに拡大しようと招待制を廃止しました。すると業者やスパム、ナンパ目的のようなユーザーがどんどん入ってくるようになり、特別感も信頼感も失われていってしまったのです。
決定的だったのが、足あと機能の廃止でしょう。mixiの足あとというのは自分のページを見に来てくれた人がわかる機能で、このおかげで交流が広がっていた一面もあったのですが、それも廃止されてしまうんです。その一方で、他社で人気の機能を次々に搭載していったことで、やがてmixiだけの良さが失われていきました」
そんな頃、FacebookやTwitterが国内でも勢いを増していた。
「そして、mixiの変わりようについていけなくなったユーザーはFacebookやTwitterに流れていってしまいました。余談ですがmixi上で匿名で繋がっていた人同士が、本名ベースで利用するFacebookで再会し、初めて相手の名前や職業がわかるなんてケースも結構ありましたね。
また、この頃からずっとSNSとスマホの相性の良さは指摘されていたのですが、mixiはスマホに対応するのがとにかく遅かった。最終的にスマホに対応したのはみんなが他のSNSに乗り換え終わった2010年くらいだったと思います。その頃、私も一度アプリをインストールして覗いてみたのですが、すでにユーザーはほとんどいなくなっていました。
mixiは滑り出しが好調だったこともあってか、自社の強みは自覚できていました。一方で、ユーザーがどこに価値を見出しているかを正しく理解できないまま、時代の変化を汲み取って方向性を整えることができなかったんだと思います。ですが、人と交流したいという欲求がSNSで叶うのだと、日本人に最初にわからせてくれた存在ではあったでしょうね」
圧倒的に収益が高いスマホゲーム、モンストで大成功
そうしてmixiは衰退していった。その影響でミクシィは、一時は赤字になるほど業績が落ち込むが、13年にモンストをリリース。すぐに人気ゲームの仲間入りを果たし、業績も上向きになる。
「実はSNSのmixiは最盛期でも収益性が低いことで有名だったんです。基本的に広告でしか収益がなく、その広告もターゲティングの精度が甘かったためか、単価も上げられませんでした。ですからミクシィが運営する求人サイト『FIND JOB!』で出た利益を、すべてmixiで“溶かして”いるらしいなんて噂もあったほど。
一方で、スマホゲームのビジネスは課金してくれるユーザーがいるから、SNSを運営するよりも圧倒的に収益が高いのです。そのため、SNSを運営していた会社がゲームの事業に参入するのはよくあるパターンといえるでしょう。グリーやディー・エヌ・エー、特にグリーは今や完全にゲーム会社です。グリーに関しては一時期、任天堂を超えるか? といわれるほどの勢いがあったくらい、スマホゲームの事業は儲かるんです」(高橋氏)
だが、ミクシィは考えなしにスマホゲームのビジネスに参入したというわけでもなさそうだ。
「モンストは単なるバトルゲームではなく、最大4人が端末を持ちよって遊べるゲームです。ミクシィはネットよりも影響力の大きい、リアルな口コミでゲームを伝えてくれる人を増やそうと、対面でコミュニケーションができるゲームを考えたようです。同社の企業ミッションは“for communication”なので、その指針にも則っていますよね」(高橋氏)
スマホゲームの事業は課金ユーザー一人当たりの単価が高い。そのため、ミクシィの収益はモンストよりユーザーが多かったmixiを主力としていた頃よりも、今のほうが圧倒的に多いのだとか。その一方で、モンストはリリースされてすでに10年近くが経とうとしている。
「今のミクシィにとっての一番の不安要素は、モンストの後釜がないことでしょう。モンストと同じくコミュニケーションしながら楽しめるサービスとして、公営競技やスポーツに関する事業も展開していますが、まだ収益源として大きくは成長していないように見えます。
20年に東証一部に上場していることからも大企業の仲間入りを果たして、さらに大きくなろうとしているのだと感じられますが、やはり模索はしていると思います。今、手元資金が1500億円ほどあるそうですが、その生かし方もまだ定まっていないみたいですね。早く次の一手を打たないと株主たちにも見限られてしまいますし、企業としての成長も頭打ちになってしまう。自社のビジネスの今後を考えないといけない状況でしょう。
ただ、日本のSNSを開拓したという存在意義はとても大きなものだと思います。特に、私も含め、元mixiユーザーのなかには、今でも当時の繋がりが生きていて、感謝しているという人も少なくないです。応援している人も多いと思いますので、ぜひ不死鳥のように復活して、さすが! と言わせてほしいですね」
ミクシィは、これからどんな手を使って人々のコミュニケーションを彩ってくれるのだろうか。その動向に注目したい。
(取材・文=福永全体/A4studio)