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「獺祭」旭酒造の初任給9万円増が大成功と言える本当の理由…他社との決定的違い

文=松下一功/共感ブランディングの提唱者
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旭酒造の「獺祭」(「Wikipedia」より)
旭酒造の「獺祭」(「Wikipedia」より)

 みなさん、こんにちは。元グラフィックデザイナーの経営コンサルタント、共感ブランディングの提唱者・松下一功です。

 会社の経営不振や自身のキャリアアップのためなど、さまざまな理由で転職が一般化している昨今、多くの企業が人材獲得に頭を悩ませています。特に優秀な若手人材の獲得競争が加速しており、少し前には、日本酒ブランドの「獺祭」で知られる旭酒造が新入社員の初任給を約21万円から30万円にアップしたことが、大きなニュースとなりました。

 同時期に全国労働組合総連合が「人間らしい生活を送るためには、最低賃金を全国一律で時給1500円にするべきだ」と発表し、物価高騰が続いていることもあって、SNSでは給料や収入に関する声が増えています。長らく給料が上がらない時代が続いてきた日本ですが、旭酒造のように給料アップを検討している会社も多いことでしょう。

 そこで今回は、給料アップを成功させる秘訣と注意点について、お伝えします。

入社決定後に初任給を引き上げた旭酒造

 旭酒造の件では、SNS等を見ると「初任給アップ」だけがクローズアップされていて、賃上げが成功する前段階の条件が置いてきぼりになっているように感じます。それは、「社員は会社の理念やビジョンに共感して入社している」ということ。別の言い方をすると、「給与面や福利厚生といった条件面に惹かれて入社したのではない」ということです。事実、旭酒造の初任給アップは入社決定後に行われており、条件面に惹かれての入社ではありません。

 これはとても重要なポイントで、仮に給料などの条件面が入社の動機になっていた場合、社員はその仕事自体に熱意を持っていない可能性が高いですし、やりがいも感じにくいので、長くは続きませんよね。何年、何十年単位の長い目で見ると、会社にとっての損失となることもあり得ます。そうならないためにも、「会社の理念やビジョンへの共感」は、何よりも大切な条件なのです。

 また、日本酒づくりはとても繊細といわれる一方で、体力勝負なところもある重労働です。「どんなお酒をつくりたいのか」「何のためにお酒をつくりたいのか」という酒づくりに対する思いは、何よりも大事になります。

 さらに会社としては、酒づくりについて学んでもらうだけでなく、長くお酒をつくり続けるためには若い人にも参加してほしい。つまり、日本酒づくりという文化を継承してほしいという思いもあります。そのための対価をきちんと支払うから、才能や意欲のある若い人に来てほしい。そういう考えを具現化する一つの手段として、「給料アップ」という形を採ったのです。その結果、新入社員の仕事に対する誇り、やりがい、満足感を与えることにつながったのではないでしょうか。

旭酒造の給料アップが成功した重要なポイント

 旭酒造のケースでは、もうひとつ大切なポイントがあります。それは、すでに日本中に獺祭のファンをつくっており、ブランド経営が成り立っているという点です。つまり、「非価格経営」ができていることです。

 以前の記事でもお伝えした「非価格経営」とは、簡単に説明すると、自分たちの仕事の純度を上げることで、高価格設定を可能にすることです。価格を高くすることで薄利多売や低価格競争から抜け出し、安定した経営が可能になります。

 旭酒造の場合は、すでに獺祭というブランドを確立していたために経営が安定しており、利益を給料として社員に還元するサイクルがつくれたのです。仮に給料アップだけを急いでも、先に非価格経営が成立していないと、どこかにしわ寄せが行き、経営自体が立ち行かなくなってしまいます。

 特に旭酒造のような酒造メーカーの場合は、伝統を守りながら事業を継続させるためにも、労力に見合った給料を与えることは当たり前といってもいいでしょう。そのための賃上げは避けられないと思います。一方、社員の方も給料アップに見合うだけの人物でないといけません。では、企業は今後、どういった人材を確保すればいいのでしょうか?

給料アップを勝ち取れる人の特徴とは

 人材採用時に「優秀な人材」を確保したいと考えるのは当たり前ですが、「優秀な人材」と「確保するべき人材」は違います。たとえば、人より仕事ができたとしても、2~3年して独立や転職をされるのは避けたいところです。どの会社も、長く働いて、会社が成長するように努めてくれる人がほしいのです。

 では、高い給料を与えるのにふさわしい「確保するべき人材」とは、どういう人でしょうか? それは、一言でいえば、まわりの人のことを考えられる「利他の精神のある人」でしょう。

 事業会社として戦後最大の負債を抱えて経営破綻した日本航空(JAL)の再生を指揮した稲盛和夫氏は、外注業者を軽視する部下に激怒したというエピソードがあります。自分たちの仕事を全うすることも大事ですが、それ以上に「まわりの利益にも貢献しなければならない」という利他の精神を大事にしていた稲盛氏だったからこそ、JAL再生は成功したのでしょう。

 現在、社員の給料アップを模索している会社は、決算書とにらめっこして捻出場所を探すのはやめて、非価格経営を目指してください。すると、社員に還元できるだけの利益が確保でき、やがて給料アップが叶う日が来るでしょう。

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