新型コロナウイルスの感染“第7波”の到来がメディアで取りざたされ、今月前半に開始する予定だった国の観光支援策「全国旅行支援」も延期になった。お盆休みを直前に控えた書き入れ時を直撃しつつあるコロナ禍に、全国の観光事業者は頭を抱えている。
そんな中、コロナ禍と宿泊事業者に関するひとつの「方針」が厚生労働省内で決まっていた。同省の「旅館業法の見直しに係る検討会」は14日、旅館業法第5条について、新型コロナウイルスに感染した疑いのある利用客を、「直ちに宿泊拒否できるようにはしないが、旅館業の営業者から医療機関の受診や関係機関との連絡・相談、旅館・ホテル滞在中の感染対策として厚生労働大臣が定めるものを要請できるようにし、正当な理由なく応じない場合は宿泊拒否を可能」とする改正案の方向性で合意した。
同省は9月の臨時国会での同法改正案の審議に向け、準備を進める方針だ。
旅館業法「発熱症状」では宿泊を断れない?
検討会の取りまとめは、お役所言葉でわかりにくいのだが、現行法での宿泊拒否は「伝染病に罹患していることが明らかに認められている場合」などに限られている。つまり“発熱がある”などの“症状のある客“の宿泊を、宿側は法的に拒否できなかったのだ。今回の検討会の取りまとめでは、“症状がないケース”でも、宿泊業者側が求める感染対策に応じなければ宿泊を拒めるようにするのだという。
検討会は、2021年8月から、新型コロナを踏まえた旅館業法に係る検討課題(宿泊拒否事由、宿泊者名簿等)、旅館業の事業承継、改正旅館業法の施行状況等について、旅館・ホテル事業者、患者等団体、障害者団体等の26団体からヒアリングを行いながら検討してきた。
検討会の議論では2003年、熊本県のホテルでハンセン病の元患者が宿泊を拒否されるなど、不当な差別事案が発生した事案も指摘された。そのため、同省は“コロナ差別”を防止するため、事業者の努力義務として「従業員研修」を加える方針を示したのだという。
法改正は9月予定「すべてにおいて遅い」
神奈川県箱根町に旅館業経営者は、こうした厚労省による法改正の審議のタイミングに首をかしげている。
「これが2020年春、遅くとも21年夏ごろまでなら、事業者や従業員、お客様すべての関係者が安心できたことでしょう。お客様同士で感染したり、従業員がお客様に感染させてしまったりする可能性を少しでも減らせたと思います。すべてにおいて遅いですよね。
コロナ禍が本格化して2年が経過し、ワクチンの接種が浸透し、その間、国の旅行需要振興策も行われました。今、旅館業法を改正して『コロナ疑いのお客を宿泊拒否できるになった』といわれても正直、ピンとこないというか……。しかも、この法改正はコロナ限定の時限立法になるという話も出ています。改正案が審議されるのは9月の国会なのなら、現在取り沙汰されている第7波、つまり今年のお盆にも間に合わないということです。
コロナ禍は今後も続いていくのかもしれませんが、検討会の立ち上げのタイミングを含め、国の後手後手の対策はこれで良いのか。疑問です」
(文=Business Journal編集部)