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アップル・ソニー・トヨタに共通する“あまり浸透していない経営手法”とは?

文=松下一功/共感ブランディングの提唱者
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アップルの共同創業者の一人であるスティーブ・ジョブズ(「Wikipedia」より)
アップルの共同創業者の一人であるスティーブ・ジョブズ(「Wikipedia」より)

 みなさん、こんにちは。元グラフィックデザイナーの経営コンサルタント、共感ブランディングの提唱者・松下一功です。

 2年前からの新型コロナウイルス感染拡大により、多くの企業は業務改革や業態変更を迫られています。この危機を乗り越えるために試行錯誤を繰り返していますが、経営を守るひとつのカギになるのは「デザイン経営」だと考えています。

 デザイン経営とは、特許庁が数年前から推進している経営手法ですが、残念ながら、あまり浸透していません。そこで今回は、デザイン経営とはいったい何なのか、デザイン経営の代表的な成功例などについて、お伝えします。

シンプルで明るい「北欧デザイン」の秘密

 デザイン経営とは何なのかを解説するために、まずはキモとなる「デザイン」の意味を再確認しましょう。デザインと聞くと、「絵を描くこと」もしくは「完成した絵」などを思い浮かべるかもしれませんが、それは間違いです。辞書などで調べると、「構想」「計画」「意匠」といった複数の意味を総括する用語として紹介されています。

 つまり、デザインとは「絵を完成させるためのプロセス全体」を指すのです。デザインを説明するのにわかりやすい例として、「北欧デザイン」があります。これは北欧諸国発祥のデザインの総称で、白やパステルカラーの明るい下地に、自然をモチーフにしたシンプルな構成と色使いが施されているのが特徴です。

 そこには、夏が短く冬が長い、また冬の期間は夜が長くて昼が短い、といった北欧諸国の環境が深く関わっています。さらに、冬は大雪が降りやすく、外出するのも困難なため、必然的に1日の大半を家の中で過ごすことになります。

 そこで、北欧諸国ではインテリアに機能性や耐久性のほかに「明るく快適に暮らしやすい」という特性も求められるようになりました。その結果、明るくてシンプルな北欧デザインが完成したのです。

 デザインとは、絵を描く様子や完成品を指すのではありません。時代背景を調べたり、どんな色や柄だと明るい気分になれるのか、などについていろいろと考え、そこから導き出した要素を反映させた物を完成させるまでのプロセスが、デザインなのです。

課題も解決策も複雑化する現代社会

 デザインの意味を踏まえた上で簡単に説明すると、デザイン経営とは、自社の課題を解決するために試行錯誤や創意工夫を繰り返し、無事に解決させることです。

 デザイン経営の意味について、特許庁のホームページにはこう書かれています。

「デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法です。その本質は、人(ユーザー)を中心に考えることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すことです」

 世の中にはさまざまなレジェンド経営者の著書やビジネスを成功させるためのハウツーが広まっているので、ついそれらに頼ってしまいたくなるかもしれません。しかし、そのやり方は、本当に自社にとって最適でしょうか?

 物が足りなかった終戦直後の日本では、大量生産を可能にするために工業分野の技術革新が進み、企業は大きな成長を遂げました。いわば、企業が抱える悩みも、進むべき方向性も限られていて、わかりやすかったわけです。

 しかし、現代は物があふれていて、消費者は高品質で価格も同程度の商品群の中から気に入ったものを選ぶ時代です。それは言い換えれば、自分たちの個性を主張しなければ、その他大勢に埋もれてしまうということです。つまり、現代では企業が抱える悩みも、進むべき方向性も多様化しているといえるでしょう。

 課題の解決策は、右でも左でもなく、自社のことを見つめ続けた、その先に見つかります。デザイン経営のやり方に正解はありませんが、強いて言えば「自社に合ったやり方を見つけること」ではないでしょうか。

 では、自社に合ったデザイン経営の形とは何でしょうか? そのヒントになる事例をお伝えします。

なぜ元デザイナー社長はデキるのか?

 デザイン経営の代表的な例は、代表取締役や社長が「元デザイナー」というケースです。私もかつてはデザイナーでしたが、お付き合いのある企業を見ていると、元デザイナーの社長には、分析力・調整力・忍耐力・突破力が備わっている方が多いように感じます。それは、デザイナー特有のスキルや経験値が備わっているからだと思います。

 たとえば、デザイナーに新商品のPRポスター制作の依頼がきたとしましょう。クライアントから提供されるプレゼン資料はあくまで資料の一部であり、ひとつのヒントとして受け取ります。大事なのは、何度もクライアントにヒアリングをして、その企業や商品に対する理解を深めていくことです。場合によっては、社内見学をしたり、開発者や製造部門の方々に話を聞いたりすることもあります。

 また、並行して、図書館や書店に通ってクライアントの業界の歴史や競合他社の状況について調べたり、デパートに行って今のトレンドを探ったり、美術館に行ってインスピレーションをもらおうとしたりと、多方面で情報収集を行います。

 そうして得られた情報や知識とクライアントの希望をミックスして、やっとポスターのコンセプトやテーマカラー、コピーライティングの方向性などが決まるのです。

 一方で、これらの工程は必ずしもスムーズに進むわけでありません。場合によっては、何日も徹夜が続いたり、何も思いつかずに途方に暮れていたけど、締め切り間際にいいアイデアが浮かび猛スピードで完成させる、というケースもあるでしょう。私も、何度も寿命が縮むような思いを経験しました。

 普段は終わりが見えない地味な作業を繰り返し、時に絶体絶命の状況に陥ることもある。そういった経験を積んできたため、元デザイナーの社長は、自社の課題解決のために最良な方法を探り、それを実行に移す力があるのだと思います。

 アップルの共同創業者の一人であるスティーブ・ジョブズが工業デザイナーだったことは有名ですが、そのアップルはデザイン経営に成功している企業の例として挙げられるでしょう。日本でも近年、「デザインと経営」というテーマは注目されています。広い意味でのデザイン経営に成功している例として、ソニーやトヨタ自動車などがイメージされますが、もちろん大企業だけでなく、中小企業でもデザイン経営を取り入れることは可能です。

 自社の課題に正面から向き合い、その解決策を探し出し、迷いなく実行する。難しく感じるかもしれませんが、やるべきことはとてもシンプルです。ぜひ、今回の話をヒントに危機を乗り越えていってほしいと思います。

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