みなさん、こんにちは。元グラフィックデザイナーのブランディング専門家・松下一功です。
2020年はコロナ騒ぎに始まって、生活様式の変化など、いろいろなことがありましたね。社会の変化も大きく、中小企業を中心に倒産が相次ぎ、「コロナ解雇」という言葉も生まれました。読者の中にも、「会社は社員を守ってくれない」と実感した方が多いのではないでしょうか?
そんな急激に変わりつつある今の日本では、「マーケティング脳からの脱却」が、生き残れるかどうかを左右します。うまくマインドチェンジをして「マーケティング脳」から「ブランディング脳」に切り替えないと、これからの社会では通用しなくなるでしょう。
そこで今回は、日本の会社員がマーケティング脳になってしまう理由や、マーケティング脳での生き方が通用しなくなる理由などについて、お伝えします。
アップルが毎年、iPhoneの新機種を発売する理由
今の日本社会は、それまでの経営戦略からブランディング戦略に切り替えようとしている過渡期と言えます。しかし、実際にはうまく切り替えられず、目的と手段がイコールになっていたり、すり替わっていたりして、真のブランディング戦略を実践できていない企業がほとんどです。
その理由は、前述したマーケティング脳にあります。マーケティング脳とは、自分のやりたいことや能力は二の次で、何よりも相手(お客様・会社)の都合や置かれている環境に合わせようとする思考のことを言います。これは、言ってしまえば高度経済成長期の名残です。
高度経済成長期は生活に必要なモノが不足していたため、人々のニーズが先行して、それを補うように商売が成り立っていました。そのため、各企業はニーズに応える製品やサービスを展開することで、成長してきました。この成功体験をいまだに引きずっていることが、マーケティング脳からブランディング脳への切り替えがうまくいかない大きな原因です。
海外に目をやると、まず買い手側に「ニーズ」が生まれ、それを補うようにしてモノやサービスが生まれて、大きな経済成長を果たしていくという流れが同じであっても、その後に売り手側に「ウォンツ」が生まれています。
ここで、iPhoneを例にしてみましょう。情報社会となった今、スマートフォンは1人1台の時代と言っても過言ではありません。そんな中で、アップルは毎年のようにiPhoneの新機種を発売しています。それは、「スマートフォンが欲しい」というニーズを補うためではありません。自分たちが欲しいと思う新たな機能を搭載して、グレードアップした機種を「より便利になりました。ぜひ使ってみてください」と、プレゼンしているようなものなのです。
モノやサービスが充足している中で、売り手側のウォンツが生まれてくると、経済成長は緩やかになります。しかし、売り手側が「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤しながら自分たちなりのブランディングを確立し、その下でつくられたモノやサービスは、簡単には揺るがない経営の柱となるのです。
こういった流れを見ると、今の日本は売り手側のウォンツが誕生していくべき変革の時だと言えます。しかし、長い年月をかけて刷り込まれてきたマーケティング脳が、その進行を邪魔しているのが実情です。そのため、コロナの感染拡大の影響を一身に受けてしまい、多くの企業が立ち行かなくなっているのでしょう。
マーケティング脳が生む「指示待ち人間」
マーケティング脳の反対にあるのが、ブランディング脳です。これは、自分の能力ややりがいを重視する思考で、次の一手を考えたり、それに合わせて環境を変えたりすることができます。
マーケティング脳の大きな特徴に「指示待ち」があります。顧客や上司の命令に従うことは、今までの社会なら特に問題はありませんでしたが、そういった人材はAIに淘汰される運命にあるでしょう。そうならないためには、ブランディング脳にマインドチェンジできるかどうかが重要です。そして、一人ひとりがミッションとビジョンを持ち、それに向かって、自分なりに考えて行動しなければなりません。
マーケティング脳からブランディング脳に切り替える必要性はわかったけど、2つの違いがよくわからないという方のために、大根農家で例えてみましょう。
「ダイエットにも健康にもいい」と、年々需要が高まっている大根を多くつくろうと考える農家(マーケティング脳)と、おいしさを追求した大根をつくって広めたいと考える農家(ブランディング脳)がいるとします。
前者は「需要が高まっている」というニーズに目を向けているため、「どうやったら大根をたくさんつくれるか」ということをより意識します。もちろん、それも間違いではありません。この場合は、一般的によいとされる栽培方法で、無難な味の大根をたくさんつくることが考えられます。
しかし、大根ブームが終わってしまったら、どうなるでしょうか? たくさんつくった大根は供給過多になった挙げ句に、廃棄しなければならない可能性も出てきます。廃棄するにもお金がかかるため、その分のコスト負担が重くなり、収入も先細りになることが考えられます。
一方、後者は「おいしさを追求した大根をつくりたい」ということを第一に掲げているため、「世界中でここにしかない、おいしい大根をつくるにはどうしたらいいか?」と日々研究して、試行錯誤しながら大根作りに励むことが予想されます。
決して簡単なチャレンジではありませんが、年々おいしくなっていく大根には、やがてファンがつくようになるでしょう。大根ブームが過ぎ去った後でも、口コミが人気を呼んで、需要と供給のバランスも崩れにくく、安定した大根作りができるようになるはずです。
農薬選びについても、前者は「たくさんつくれる」ことを念頭に置き、後者は「おいしさ」や「栄養」を重視して選ぶでしょう。このように、同じ大根農家でも、マーケティング脳とブランディング脳では目標や到達点が違うため、さまざまな違いが出てくることが想像できます。
マーケティング脳とブランディング脳の違いを、おわかりいただけたでしょうか? これを読んでいるみなさまがブランディング脳を育み、コロナで変化した今の社会に、1日でも早くなじめることを祈っています。
(松下一功/ブランディング専門家、構成=安倍川モチ子/フリーライター)