みなさん、こんにちは。元グラフィックデザイナーのブランディング専門家・松下一功です。
前回は、フリーランスや個人事業主が生き残るために必要な「顧客の成長」と、顧客を育てるための「自分を知ってもらう営業」についてご説明しました。
個人で仕事を長く続けるためには、取引先を「顧客」から「ファン」や「同志」に育てることが必要で、そのためには「自分を知ってもらう営業」を行うことが大切です。具体的には、自分の仕事におけるこだわりや得意分野、どんなものを提供できるのか、過去にどんなことをしているのかなどのコアな部分を伝えていきましょう。
そうすることで、あなたと他の人との違いが明確になり、あなたが提供できるものを「ほしい」と言ってくれる人が出てくるはず。そのために有効なのが、営業ツールの「ポートフォリオ」の見直しです。
今回は、ポートフォリオの役割に加えて、どんなポートフォリオをつくればいいのかについて、お伝えします。
ポートフォリオ作りの2つのポイント
フリーランスの方なら、ひとつくらいはポートフォリオをお持ちだと思います。では、質問です。あなたのポートフォリオを一通り見終わったら、相手にはどんなことが伝わりますか?
携わったプロジェクト数の多さ? 誰もが知る企業のプロジェクトに参加したという輝かしい経歴? それとも、たくさんの実例からわかる技術の幅?
これらはすべて正解のように思えますが、ブランディングの観点から言えば、どれも不正解です。では、何が正解かというと、あなたがどんな気持ちでプロジェクトに携わったのかという「想い」と、プロジェクト完成に至るまでの「プロセス」がわかるものです。
元デザイナーということもあり、よくご相談をいただくデザイン会社を例にしてみましょう。デザイン会社のポートフォリオでありがちなのが、年代順に作品を紹介したもの、有名なクライアントの作品を列挙したもの、不動産・飲食・エンタメといったさまざまな分野の作品を並べたものです。
これらのポートフォリオを見て、「なるほど、こういった作品をつくるデザイン会社なのか」とは思いますが、正直なところ、これだけでは他社とあまり変わりませんよね。「想い」と「プロセス」がわからないので、この会社ならではの考えやスタンス、こだわりといったものが見えず、「この会社に依頼したい」と思うような決定打にはなりません。
では、クライアントのオーダーに対して、どんなコンセプトを打ち出し、どんな工程で完成に至ったのか、その変遷がわかるポートフォリオだとどうでしょう?
そのデザイン会社が持つこだわりや考え方、クライアントとの関わり方といったことが、何となく想像できませんか? 他社と比べたときに「この会社に頼んでみようかな」と思いませんか?
「想い」と「プロセス」が伝わるポートフォリオは、営業ツールであると同時に、あなたの分身でもあります。いくら見やすくオシャレに仕立て上げていても、コアな部分が伝わらなければ、あまり意味がないのです。
新人でもベテランでも基本は同じ
ここまで読んで、「経験が浅い自分には、そんなポートフォリオはつくれない」と思った方がいるかもしれませんが、そんなことはありません。クラウドソーシングなどで副業を始めたばかりの人でも、自分を知ってもらうポートフォリオはつくれます。
なぜ、そのプロジェクトに参加しようと思ったのか、そこでどんなことを感じ、学んだのか、そのときに出てきた課題は何か、次にどう生かしたいのか。いろいろと考え、悩んだことと思います。それこそが、ポートフォリオに必要な「想い」と「プロセス」なのです。
ポートフォリオに「輝かしい経歴」や「携わったプロジェクト数」は、ないよりはあった方がいいでしょう。しかし、絶対ではありません。フリーランスに向けて準備中の人、フリーランスに転身したばかりの人、すでに実績を重ねている人、いずれもポートフォリオづくりの基本は同じです。
これを機に、自分のポートフォリオを見直して、自分の分身となり得るような「想い」と「プロセス」が伝わるものになっているかをチェックしてみてください。
そして、「想い」と「プロセス」が伝わらないのであれば、過去のことを振り返り、自分がどんな気持ちで仕事と向き合い、何を考えて、どうやって完成に至ったのかを思い出してみてください。素敵なポートフォリオが完成するのはもちろん、それまで見えていなかった自分の強みやこだわりなどに気づくこともできるでしょう。
新型コロナのような前代未聞の事態にも動じない、強いフリーランスになってください。
(松下一功/ブランディング専門家、構成=安倍川モチ子/フリーライター)