コロナ禍により人付き合いが激変した昨今、新たな友人やコミュニティを作るハードルが高くなり、寂しさを感じている中年男性が増加しているという。そこで、文化系の“おひとりさま”男性でも仲間が増えると、静かなブームとなっているのがボードゲームカフェだ。テレビゲームと違い、実際に人と顔を合わせてプレイするアナログ系ゲームは、コロナが落ち着いてきた影響で客足が戻り、再び注目を集めているという。
ボードゲームカフェは中年男性の孤独を癒やす救世主となれるのか。東京・中目黒の「Cafe Brownstone」の相席イベントに出向き、参加者に話を聞いてみた。
おひとりさま中年男性でも楽しめる場所?
近年は据え置き型のテレビゲーム機が高性能化して、オンライン対戦や協力プレイ中にテキストやボイスチャットなどでさまざまなコミュニケーションが取れるようになった。また、パソコンやスマートフォンなどでもオンラインゲームは人気が高く、それぞれのカテゴリーで大きな盛り上がりを見せている。
対して、ボードゲームやカードを用いたアナログゲームは根強い人気はあるものの、実際にプレイする人は減少傾向だった。しかし、2010年頃に参加者たちがお互いの正体を探り合う「人狼ゲーム」がブームとなり、そこから相手との駆け引きやプレイヤー間の交渉を楽しむ「カタン」や「ドミニオン」などの名作ボードゲームが流行。こうした人気を受けて、アナログなゲームをプレイする場を提供する「ボードゲームカフェ」が続々と誕生した。
海外から輸入されたゲームだけでなく、日本でもオリジナル作品が次々と生み出されてブームは盛り上がっていたが、コロナ禍によって対面してプレイすることが難しくなってしまう。そんな状況でも、オンライン上で世界中の人とボードゲームを楽しめる「BOARD GAME ARENA」などのサイトが盛況となるなど、人気は衰えず、コロナの流行が落ち着き始めた今夏あたりから、再びボードゲームカフェに人が戻りつつあるという。
そんな中で目につくのが、中年男性の独り客。コロナ以前から仕事関係以外でコミュニティを作れない「孤独なおじさん」が増えていることが指摘されていたが、そんな寂しさを解消するのに適しているのが、初心者でも楽しめるアナログなボードゲームというわけだ。
とはいえ、未経験者にとって、いきなりボードゲームカフェに行くのはハードルが高い。そこで注目したいのが「相席イベント」だ。初対面の人同士でも店側がマッチングしてくれるので、誰でも気軽にボードゲームを楽しめるという、“おひとりさま”にはもってこいのイベントなのだ。
今回、取材にうかがったボードゲームカフェ「Cafe Brownstone」も、定期的に相席イベントを開催している。お店のホームページには「30代、40代の方が中心に集まっています」と記載されており、また「店側がゲームの説明を行わない」ので、ボードゲーム経験者と初心者がより交流しやすい仕掛けになっているという。
「プライベートな話ができるくらい仲良く」
「Cafe Brownstone」があるのは、中目黒駅から歩いて10分ほどの雑居ビルの2階。「ボードゲームが遊べる大人の隠れ家カフェ」を標榜するだけあって、一見すると探しにくい場所にあった。
料金は3時間1300円で、延長60分ごとに300円。5時間、7時間パックもあり、平日限定で1ドリンク付きのフリーパックプランもある。カフェ内は縦長のスペースとなっていて、左手には4人席が4卓と2人席が1卓、右手にフードやドリンクを注文するカウンターがある。
記者が到着したのは平日の17時30分ということもあり、店内には30代くらいの男性客が2名ほど。店長に聞くと「今日は予約がたくさん入っているので、これからお客さんが増えると思います」とのこと。
そこでまず、この2人に話を聞いてみた。竹下さん(仮名/33歳)は、このお店の常連だそうだ。
「ボードゲームを初めて知ったのは2年ほど前。友達の家で暇つぶしに遊んだゲームがおもしろかったんですよ。そのゲームで誰かと遊べる場所を探して、横浜の『はまりばカフェ』という相席専門のボードゲームカフェに通うようになりました。そこでたくさん友達ができて、今でもプライベートな話ができるくらい仲良くなった人もいます」
現在は「Cafe Brownstone」の近くに引っ越したので横浜に行く頻度は減っているそうだが、それでもたまに遊びにいくこともあるという。
もうひとりの青木さん(仮名/36歳)も、最初はひとりでボードゲームカフェを訪れたそうだ。
「ボードゲームは全然やったことなかったんですけど、時間つぶしに、あるボードゲームカフェに1人で行ったんですよ。それで、4人で対戦するゲームに入れてもらったんですが、僕ともうひとりは日本人で、あとは台湾人とイギリス人。日本人2人がまったくゲームに詳しくなかったので、台湾の方に片言の日本語で説明してもらいました(笑)」
国際色豊かなデビュー戦を経て、その台湾の方にオススメのボードゲームをいくつか教えてもらい、言われた通りに遊んでるうちにボードゲームの魅力にハマってしまったそうだ。
店長にも話を聞いてみる。
「おひとりで来られるお客様は多い印象ですね。こちらがマッチングしなくても、自然にテーブルを囲んでゲームを始めていらっしゃいます」
HPに記載されていた「店側によるゲームの説明がない」というシステムによって、初心者のグループ客はほぼ来ないという。初心者が説明書をひっくり返しながら遊ぶのは実にストレスフルな遊び方のようで、そういうグループは店員が丁寧に説明してくれるカフェに流れるのだそうだ。
「ウチはお客さん同士で交流していただくので、より親しくなりやすいかもしれません。常連さんは早く集まった同士で時間のかからないゲームを始めて、人が増えてくると分散して、少人数でじっくり遊ぶゲームに移行するという流れはあります。ただ、常連さんでも新しもの好きの方が多いので、新入荷したゲームをとりあえずやってみるということも多く、その場合は誰もが初心者として盛り上がりますね」
勝敗にこだわる“ガチ勢”は避けられる?
19時を回ると、お客さんも増えてきた。入場すると、まずはカウンターで名札を書き、付ける。そして、ドリンクをオーダーしたら、手が空いていそうな人同士で声をかけ合って、さっそくテーブルを囲んでいる。
少し年配に見えた大石さん(仮名/50代)に話をうかがった。
「同世代にボードゲームの話をすると『お金を賭けないとおもしろくないでしょ』と言われることが多いんですが(笑)、私は純粋にゲームを楽しんでますね。私はスゴロクのような運否天賦なゲームでなく、10回やったら2、3回は初心者が経験者にも勝てるような、戦略性があってバランスのいいゲームが好きなんです。同じようなゲームでも、うまくコーディネートできる人と一緒に遊ぶとおもしろさが全然違うとわかってもらえるので、食わず嫌いせずに初心者歓迎や相席イベントのある会に参加してみてほしいですね」
大石さんは「ジモティ」という交流サイトを使い、自分で人を集めてボードゲームの会を開くこともあるそうだ。
初めて訪れたお客さんを優しく誘導していた高木さん(仮名/41歳)も、やはり最初は1人でボードゲームカフェに突撃したという。
「一人暮らしで夜は外食が多かったので、カフェで晩ごはんを食べるついでという気持ちで行ってみたのが最初です。今はここだけでなく、いろいろなカフェに出向いて、得意なゲームの種類も増えてきましたけど、初めて遊ぶ方とご一緒するときは、慣れてる感じを出さないように気をつけています。勝敗にこだわる“ガチ勢”とは、あまり思われたくないんですよね」
店長によると、やはり最低限のマナーとコミュニケーション能力はあった方がいいそうだ。
「勝敗にこだわったり、自分の意見を押し通す人は相席イベントに向いていないかもしれません。あとは基本的な清潔感。ゲーム中はトークン(小さい駒)やカードなど多くの小物を触りますし、一応飲食店なので、ある程度の清潔感は求められるかと思います」
気づくと、はじめましての人同士で遊んでいたテーブルも数分後には楽しげに声をかけ合っていて、店内はかなり和んだ雰囲気になっていた。ボードゲームがコミュニケーションツールとして優れていることは間違いないようだ。
おひとりさま中年男性の初対面でも、今遊んでいるゲームの話をしているだけでコミュニケーションが成立するボードゲームカフェ。常連の人たちも初心者に対して非常にウェルカムで、予想以上に優しい界隈だという印象が深まった。確かにこれなら、中年になってからでも友達100人できるかもしれない。