クリスマスイブにあたる今月24日、宅配ピザチェーン大手ドミノ・ピザの一部店舗で「持ち帰り」で予約をした客への受け渡しが大幅に遅延。Twitter上では寒空の下で3時間以上も待たされたという報告もみられたが、ドミノ・ピザは同日に公式Twitterアカウントで「当日の注文も間に合います…!まだ!間に合います…!」と投稿しており、2016年のクリスマスイブにも同様の遅延事例が発生していただけに、批判の声が続出。一方、システムの不備やクレーム対応のせいで狼狽する店員たちに同情する声も多数寄せられるなどし、騒動に発展している。
ドミノ・ピザといえば、ユニークな取り組みやキャンペーンが話題になることも多い。たとえば毎週水曜日に行われる「BIG WEDNESDAY」は、注文アプリ「Domino’s App」から注文するとピザ3枚を2590円(Mサイズ)、3240円(Rサイズ)、3880円(Lサイズ)で購入できるというもの。対象となる「1・2ハッピーレンジ」カテゴリーのなかで比較的高価格な「クワトロ・2ハッピー」(Mサイズ)は単品で2520円なので、実質的に1枚分の金額で3枚を購入することができ、1枚当たりの金額は800円台とお得になる。また、Mサイズピザは単品価格が2000円台のものが多いが、公式サイト上からは「Mサイズピザ1枚+サイド2品」で2299円となるものなど多数のクーポンが入手できるようになっており、クーポンを使った戦略にも積極的だ。
このほか、メニュー以外でもユニークな取り組みが目立つ。サッカーW杯の日本代表戦が中継された12月5日深夜には、769店舗で営業時間を25時まで延長し、ピザ3枚・サイド3品を3999円で提供する「応援セット」を用意。12月26日から1月2日にかけては「ドミノ・ピザ史上初・前代未聞・空前絶後の目白押し!」と銘打ち、東三国店がドミノ・ピザの日本売り上げNo.1記録に挑む「年越しチャリティーチャレンジ」を展開。期間中は24時間営業を行うという。
19年には注文受付から商品提供までのリードタイムを、テイクアウトで3分以内、宅配で10分以内に縮める取り組み「PROJECT 3TEN」を発表して大きな話題を呼んだりもしたが、ドミノ・ピザがメディアで取り上げられる機会も少なくない。今月22日放送のテレビ番組『カンブリア宮殿』(テレビ東京)には、業績が低迷していたドミノ・ピザ ジャパンを復活させた立て役者として同社代表取締役のジョシュア・キリムニックが出演。「画期的なシステムと常識破りの出店戦略」だと絶賛されていた。
「上の人が何も対応も対策もしてくれない」
そんなドミノ・ピザだが、最近では何かと混乱も目立っている。11月の「ドミノの\100 WEEK!」キャンペーン期間中のサッカーW杯日本代表戦が中継された日には宅配の遅配が相次ぎ、配達予定時間から2時間以上遅れが生じているという報告もみられたり、今年複数回行われた「Lサイズピザを買うとMサイズピザ2枚無料」キャンペーンでは一部店舗で遅配や宅配の受付停止が発生するなどして、利用者からクレームが寄せられる事態となっていた。
今回のクリスマスの提供遅延騒動を受け、ネット上ではドミノ・ピザの現役クルーや元クルーと思われる人々から以下のような声があがっている。
<ドミノピザでバイトしている者です。正直、クルーの間ではドミノのシステムが穴だらけの欠陥システムだってことは皆知っています。みんな文句を言ってますが上の人が何も対応も対策もしてくれないので長年このシステムのままです。新システムが導入とかなんとか言ってますが、はっきり言って現行システムよりもさらに低レベルのものです>
<ネット予約の伝票が床に着くまでひたすら発行されてんのに店頭でも電話でも注文受けるから完全に捌ききれなくて客にはキレられるわ店長は機嫌悪いわで途中からやる気無くした>
<クリスマス当日すっごい量のお客様が来店されて従業員誰も外に待ってるお客さんに説明をしに行かなかったので自分が外で待ってるお客さんのところへ説明しに行ったところ囲まれて一生キレられる始末。普通にメンタルやられ、店内もブチギレ状態>
<現場は信じられんぐらい地獄やで 店舗外に何十台と路駐する車列、20時の時点で作るのは17時半予約分、店内に飛び交う怒号と謝罪、デリ先でも当然ブチギレ謝罪>
また、ここ数カ月で利用者からも
<店舗に電話したら半泣きのスタッフさんが配達時間AIが管理してて店舗から操作できないんです…って言っててまだ焼いてなくて何時になるかも分からないって謝られた>
<ピザ作ってるバイト君が「優先オーダー消えてってる!ヤバい!とにかく上に表示されてるのから作れ!」て言ってたから、これは予約システムそのものがダメなんだろうなぁと思った>
<バイトの方が謝罪してくれるなんて・・現場の人が一番大変なのに・・バイトの子が返金しに来る、店長、責任者は電話すらしない>
<配達のバイトの方がすごく謝られてて居た堪れない気持ちになりました。もっと現場を大切に、キャパオーバーさせないであげてください>
といった声が出ているが、飲食業界関係者はいう。
「本部は世間的に話題づくりのために派手なキャンペーンや取り組みに躍起になったり、AI(人工知能)を使った注文予約管理システムを導入したりしているが、現場のオペレーションを十分に考慮していないために、その歪みがさまざまなかたちで生じている。通常、店舗のオペレーション能力を超える注文数が入りそうになった際には新規の注文受付を一時的に停止するのが常識。だがドミノ・ピザでは本部のAIが自動的に予約受付の可否判断やお客への配達予定時間の通知を行ったものの、その予測が現実と乖離し、さらにシステムの制御方法がわからなかったためなのか、なんらかの理由で新規注文をストップできない店舗が生じた。そのしわ寄せがすべて店舗のスタッフにかぶさったことで地獄絵図のような状況が生まれた。
本部と現場の店舗の間だけでなく、経営トップが外国人ということもあり、本部のなかでも経営陣とその他の社員の間で意思疎通が取れていないのでは。もしくは、経営陣の目が数字上の業績向上だけに注がれ、現場で進行している問題を正しく把握できていないように感じる」
ドミノ・ピザはニュースサイト「ねとらぼ」の取材に対し、
「システムは大幅に改善されており、今回はシステムに関しては、大きな問題はなかった」
「注文に対応できない場合は各店舗でオーダーストップする対応ができる」
と答えているが、前出・飲食業界関係者はいう。
「システム自体に不備がないという見解なのだろうが、結果として店舗側で注文を止められずに捌ききれないほどの注文が入って大混乱が生じてしまったということは、現場的には『使えないシステム』ということ。いくら高度なシステムを導入しても、経験が浅いアルバイト店員でも簡単に使えるシステムではないと意味はないし、かえって現場を混乱させることになる。その意味ではシステム的には欠陥があったと評価されても致し方ないし、企業の姿勢としてもそのように認識して改善に取り組んだほうが建設的ではないか」
なぜドミノ・ピザは同じトラブルを繰り返すのか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏に解説してもらった。
現場をわかっていない本部
AIを使った受注システムには「ピザをつくる所要時間」や「人員」などの基礎データが入力されていると思いますが、それが「机上の理論」だと今回のようなことが起きる。人間はロボットではないので、熟練度によって個々の作業効率に差があるし、イレギュラーなことも起きます。人手不足の今日ですから、頭数を揃えるためにヘルプ的に働いているスタッフもいるでしょう。
今回のようにトラブルが起こり、クレームの電話や窓口対応、近隣対応などイレギュラーなことが重なると、そこに人員や労力、時間を取られてしまい、相乗的な負の連鎖となってしまいます。当日の人員構成やスタッフ個々の熟練度、イレギュラーが起きた際のバックアップ体制まですべての要素をシステムに組み込むことができれば、まだスムーズにこなせる可能性はありますが、なかなか難しいでしょう。「現場の実務」よりも、本部がシステムを過信した結果の出来事だと思います。
また、ドミノ・ピザは公式Twitterアカウントで「当日の注文も間に合います…!」などと投稿してましたが、本部一括でのTwitter等での情報発信にも無理があります。店舗によって状況は違うはずです。目標を達成するために各店舗から情報を発信するなら、まだ現状に即していたかもしれませんが、本部から「一括」で「まだ大丈夫」と情報を発信すること事態にも無理があります。
通常なら、人も会社も失敗の経験を将来に活かすはずですが、それが活かされていないところに会社本部の風土や体質が見られます。小さなお店でも大きなお店でも「決定権」を持っている経営者や上司が存在します。何か失敗したりアドバイスを受けても、それを活かすも殺すも決定権者次第です。同じ失敗をしないように注意を払うべきですが、また同じ失敗を繰り返しているわけですから、前回の失敗の際に「まっ、いいか」「大丈夫だろう」「消費者は忘れるだろう」などと安易にとらえている決定権者がいるのかもしれません。今回のTwitterでの発信が担当者の判断なのか、上司による命令なのかはわかりませんが、現場の状況を理解し、慎重になって検討していれば、また違った対応となったはずです。
「地獄絵図」と揶揄された店舗のスタッフは、ある意味で被害者かもしれません。本部が現場研修をやっているという会社は多いですが、「平時」の研修はあくまで「見学レベル」のもの。もう一歩踏み込み、現場からの声や状況を把握することが必要だと思います。
(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)