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千葉哲幸「フードサービス最前線」

最近、人気の焼き肉店がこぞってホルモン・もつ焼き店を出店する意外な理由

文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト
最近、人気の焼き肉店がこぞってホルモン・もつ焼き店を出店する意外な理由の画像1
横浜・鶴屋町の「亀戸ホルモン」では、おすすめの食べ方を盛り合わせにしたメニューを店舗限定で提供

 最近「ホルモン」「もつ焼き」の出店事例が増えている。注目されるのは焼き肉店を展開している企業からの参入。本業の焼き肉店は5000円~7000円といった中価格帯。ちょっとしたハレの日需要で顧客を育ててきているところがこれらに取り組んでいる。その背景を探っていくと、飲食業界の市場環境と、焼き肉店で成長してきた企業の成長戦略が見えてくる。

深夜帯の営業で飲食業に目覚める

 2022年9月、JR横浜駅近くの飲食店街「鶴屋町」に「亀戸ホルモン」がオープンした。同店は焼き肉店やカジュアルイタリアンを展開するテイクファイブ(本社/東京都渋谷区、代表/遠山和輝)の経営で、同業態はこれまで恵比寿、神楽坂(FC)、有楽町、五反田、目黒権之助坂と、サラリーマンの憩いの場所や住宅街に近い立地に出店してきた。

 同社が「亀戸ホルモン」を展開するきっかけとなったのは、JR亀戸駅北口にある亀戸ホルモン本店が恵比寿に出店したこと。その箱(店舗施設)を同社の経営する焼き肉店「まんぷく」に譲渡するという相談があり、代表の遠山氏(54)がその店で食事をしたところ「うちの味と一緒じゃないか」と感銘を受けて、箱を譲り受けるのではなく「亀戸ホルモン恵比寿店」の営業を継承し、18年11月にマスターフランチャイズ契約を締結した。そして同店は20年から3年連続で「食べログ焼肉TOKYO百名店」に選出されている。

 遠山氏が飲食業に親しむようになったのは、母が東京・自由が丘にあった焼き肉店を手伝っていて、学生時代に部活動の練習が終わってからそれを手伝うようになったこと。23時になると母は家に帰ることから、その後の深夜の時間、自分の好きな営業スタイルで自分がおいしいと思うものにこだわって営業していたという。そのうちにお客が喜んでたくさん付くようになった。自分は性格的に人に喜んでもらうことが好きだと思うようになり本格的に飲食業に進むことを志すようになった。大学卒業後は総合商社に進んだが、退社して1993年5月に現在の会社を設立し東京・表参道にカジュアルイタリアンをオープンした。

ホルモンによって客層が広がる

 テイクファイブが焼き肉店を手掛けたのは1995年5月、自由が丘にオープンした「まんぷく」から。以来、代々木上原、青山、二子玉川といった住宅地に近い立地で展開。地域密着で地元家族客から代々愛される店を心掛けてきた。遠山氏は「家族で焼き肉を楽しむことにこだわりがあり、小さなお子さんには上質の外食体験をしてほしいので、お子さんが店に行くのを楽しみとする環境の良い店づくりを心掛けている」と語る。

 同社が「亀戸ホルモン」を展開するようになった経緯は前述した通り。焼き肉店の箱を譲り受けるのではなく「亀戸ホルモン」という業態そのもののマスターフランチャイズをしようと決断したのは、焼き肉店のビジネスに新しい領域を見出したからだろう。「亀戸ホルモン」のステートメントコピーはこうなっている。

「今日という日を振り返ってみる。ベストを尽くしたか? 今日の自分はイケていたか? 友達に感謝できたか? 家族を大切にしているか? あの人とうまくやっているか? 今日という日を悔んでいないか? さあ、明日も自分らしく生きようぜ!」

 ファミリーとは異なる、大人個人に迫るメッセージである。客単価は「まんぷく」が7000円前後、「亀戸ホルモン」は4500円ということで客層や利用動機も異なる。「まんぷく」の常連客がテイクファイブで「亀戸ホルモン」を営業していること知り、同店を訪ねてみてはその意外性を楽しんでいる。

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ご飯の「まんが盛り」は「亀戸ホルモン本店」での伝統的なメニュー

原価高騰と人材不足を解決する

 神奈川県の県央部で「食彩和牛 しげ吉」という焼き肉店が展開されている。場所は、大和市、横浜市、藤沢市で地元密着の店だ。特徴は和牛を提供しながら客単価が5000円ということ。一般的な「5000円の焼き肉店」というイメージを超えたお値打ち感がある。

 同店を展開しているのはシゲキッチン(本社/横浜市中区、代表/間宮茂雄)。同社は代表の間宮氏(42)が2003年、22歳のときに大和市内で独立開業(現在の大和本店)したもの。現在「食彩和牛 しげ吉」が6店舗、牛肉の端材でつくった焼売を提供する「焼売酒場 しげ吉」1店舗、ほかにFC店を3店舗展開してきた。

 同社ではこの3月10日に初のもつ焼き業態となる「もつ焼 しげ吉」を小田急線・相鉄線の大和駅から徒歩2分の飲食店街に出店した。同店を出店した狙いについて間宮氏はこう語る。

「『しげ吉』は創業以来『いいものを安く』というモットーで展開してきたが、昨今は和牛が高騰し、さらに人材不足ということが加わり店舗展開が難しい。では外国産の牛肉を使って原価の高騰を吸収しようと考えたが、それを『しげ吉』ブランドでやるのは忍びない。そこで『いいものを安く』というモットーをもつ焼き業態で表現しようと考えた」

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「もつ焼 しげ吉」は入口側がロングカウンターになっていてお一人様に対応している

 肉の卸業者の「いま内臓が売れにくい」という言葉が、「もつ焼き」を始めるきっかけになった。同社の既存の焼き肉店では各店に肉をさばく職人がいて、肉の卸業者から届いたブロック肉を各店でさばいている。この工程はアルバイトには任せることができない。それが内臓であれば、下処理は和牛のブロック肉と比べると容易であり、一部下処理したものを卸業者が届けてくれる。「いいものを安く」をモットーとしながら、原価の高騰と人材不足を解決できるのが「もつ焼き」ということだ。

 既存の「食彩和牛 しげ吉」の原価率は45%となっている。利益体質をもたらしているのは、出店立地が駅から遠かったり、郊外にあることで、コストに占める家賃の比率が低いこと。そして5000円という圧倒的なお値打ち感が客の目的来店となる。一方、もつ焼き店の立地は駅近である必要があり、「もつ焼 しげ吉」は客単価3500円、原価率は30%を想定している。間宮氏は「既存のもつ焼き屋にない商品力によって、まず3店舗の成功事例をつくり、3年間で10店舗、FC展開も進めて10年間で100店舗を目指す」と語る。

既存の「もつ焼き店」にない強いメニュー

「既存のもつ焼き屋にない商品力」を標榜する「もつ焼 しげ吉」のメインのメニューは次の3つ。まず「名物 もつ煮込み 旨みそ/辛みそ」各550円(税込、以下同)。八丁味噌を効かせたスープをつくり、別にもつを柔らかく煮込んでおき、お客から注文があってからこれらを合わせて最終調理を行う。食味はネーミングのイメージに反してさっぱりとしている。

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FCによる「10年間100店舗」構想に向けて、差別化された強力なメニューがそろっている

 次に「もつ刺盛り合わせ(鶏のレバー、ハツ、精肉の三点盛り)」1650円。内臓を刺身で提供することは禁止されているが、こちらは塩漬けにした内臓を低温調理したもの。食感はまるで刺身。塩味が効いているのでそのままで食べられる。

 そして「しげ吉串」1本176円。丁寧に手で刺したシロ(豚の内臓)を一度ボイルして、その後、油で揚げてカリカリにする。さらにそれを焼き台で焼く。このように店内で3工程を行う手間暇かけたメニュー。鶏皮のような食感に加えてホルモン特有の歯応えがあり、噛めば噛むほど旨味が増す。

 筆者は間宮氏に「焼き肉店を営んでいる飲食業がもつ焼き店を営むメリットとは何か」と尋ねた。間宮氏はこう語った。

「当社では肉の卸業者さんに無理をお願いして、なかなか手に入りにくい肉を仕入れることができている。同じ卸業者さんから内臓を仕入れるのは、その恩返しという位置づけ。このようなかたちで卸業者さんとの関係性を深めていきたい」

 これはB to Bにおけるウィンウィンである。そして、焼き肉店で顧客を増やしてきたシゲキッチンにとって、新たにもつ焼き店を展開することは「しげ吉」ファンの利用を広げることになる。焼き肉店を展開してきた飲食業が「ホルモン」「もつ焼き」を手掛けるメリットはたくさん存在している。

(文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト)

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

フードサービス業界の経営専門誌である『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)とライバル誌両方の編集長を歴任。2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく、最新の動向もリポートする。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。

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