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積水ハウス「5本の樹」計画の驚異的成果…植栽1810万本、鳥や蝶が飛躍的に増加

構成=鈴木領一/コンサルタント
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積水ハウス「5本の樹」計画
積水ハウスHPより

 3月28日、坂本龍一さんが亡くなられた。世界的音楽家として知られた坂本龍一さんだが、森林の保全活動を行う一般社団法人more treesの代表を務め、高知県の梼原町では1万2000本のカエデやケヤキを植樹するなど、精力的に環境問題にも取り組まれていた。

 坂本さんは、東京・明治神宮外苑の再開発で樹木約1000本が切り倒されることを懸念し、2月24日付で小池百合子都知事に、「先人が100年をかけて守り育ててきた貴重な神宮の樹々を犠牲にすべきではありません」と、見直しを求める手紙を送っていた。

 この坂本さんの訴えを受け、また再開発に対する住民の反対意見も踏まえて4月4日、東京都は事業者に対し、早急に具体的な対応策を示し実施するよう要請した。

 近年、SDGsを旗印に、一般市民の環境問題に対する意識も高まっている。SDGsは、2015年に国連総会で採択された「接続可能な開発目標」だが、それよりも遥かに早く、自然環境保全に取り組んできた企業がある。

 住宅メーカーの積水ハウスは、2001年からスタートした『5本の樹』計画で、2021年までに累計1810万本もの木の植栽を達成した。

 これがどれほどの規模なのか、イメージしやすいように、東京にある明治神宮の森林規模をベースに計算してみよう。

積水ハウス「5本の樹」計画の驚異的成果…植栽1810万本、鳥や蝶が飛躍的に増加の画像2
明治神宮

 明治神宮には現在、約3万6000本の樹木がある。広さは総面積72ヘクタール、およそ東京ドーム15個分に相当する。

 積水ハウスが植栽した1810万本は、明治神宮内の樹木の実に500倍以上となる。明治神宮をベースとした広さで換算すれば、なんと東京ドーム7500個分にも相当する。これはあくまでも読者にイメージしやすいように計算した数値だが、積水ハウスがいかに大きな結果を出しているかが想像できるだろう。

 近年では、年100万本のペースで植栽が進んでいるという。東京都の街路樹が100万本といわれるので、毎年、東京にある街路樹と同じ数の樹木を増やしている計算になる。

『5本の樹』計画とは、積水ハウスが提供する住宅の庭に、地域の在来種を中心に植樹していくプロジェクトだ。庭に5本植えるという意味ではなく、「3本は鳥のために、2本は蝶のために」というコンセプトを意味しているという。

 積水ハウスのESG経営推進本部環境推進部課長である八木隆史氏は、次のように語る。

「弊社は、『我が家を世界一幸せにする』というグローバルビジョンを掲げています。家の中の安全安心は当然ですが、家の外の環境の問題も解決する必要があると考えました。1999年から、環境にやさしい住宅づくりや居住環境づくりを通し、人と街と地球が調和する未来の実現に向け環境未来計画として、建築廃材のリサイクルなどに取り組んできました。弊社は住宅の建築と同時に外構や庭づくりも行っていました。そこで、お庭に植える樹木を使った取り組みができないかと、2001年にから“3本は鳥のために、2本は蝶のために”という思いを込めて『5本の樹』計画をスタートしました」(八木氏)

 一般的な住宅の庭には、園芸種や外来種が植えられることが多い。しかし、『5本の樹』計画では、地域の在来樹種を中心に提案するという。これは、住宅地の周辺にある森・里山などの自然をつなぎ、失われつつある生態系ネットワークを維持・復活させるためだ。現在は、専門家の協力を得て、288種類もの在来樹種を『5本の樹』として選定している。

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(積水ハウスの「5本の樹」計画サイトより)

「地域の在来樹種をまとめた『庭木セレクトブック』を制作しました。これは書店では手に入らないオリジナル図鑑です。この図鑑には、樹木と鳥や蝶の関係も書かれています。この『庭木セレクトブック』から、お客様ご自身で木を選んでいただけます。これまで、国内で在来樹種はほとんど流通していませんでした。このプロジェクトを推進するため、生産者・造園業者様にご協力をいただき、流通経路も一から構築していきました」(同)

 ただ単に植樹をしていくという上辺だけの取り組みではなく、積水ハウスは失われていく生物多様性の保全や回復に貢献する活動として、超長期的なビジョンを持って取り組んでいる。ここが、他社の取り組みとの決定的な違いだろう。

 21年間で1810万本を達成した『5本の樹』による生物多様性保全への効果を、科学的かつ客観的に検証することにも、世界で初めて成功したという。

 琉球大学の久保田康裕教授は、動植物、気候などのデータを10年以上緻密にビッグデータ化し、生物多様性を科学的に分析する研究をしている。久保田教授の生物多様性ビッグデータを使い、『5本の樹』計画で植栽した樹木データ(樹種、本数、位置情報)を解析したところ、次のような結果が出たという。

「全国を1キロ単位で細かく分析したところ、1810万本の樹木が増えることで、在来樹種が平均5種類だったのが、平均50種類へと10倍に増えました。また、住宅地に呼び込める鳥は平均9種類から平均18種類へと2倍に、蝶は平均1.3種類から平均6.9種類へと5倍に増えることがわかりました」

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(積水ハウスの「5本の樹」計画サイトより)

(積水ハウスの「5本の樹」計画サイトより)

『5本の樹』の効果は、生物多様性の保全や回復だけでなく、住民のメンタルにも良い影響が出ているという。

「昨年、あるご家庭を訪問させていただいたのですが、お子様が新型コロナの影響で学校に登校できずに、ずっとお家にいる状況でした。ところが、お子様はニコニコ元気でいらっしゃるのです。『どうしたの?』と聞くと、『毎日お庭に鳥が来ていたから、鳥の観察をしたんだよ』と教えてくれたのです。『こんな鳥さんがきたよ』と笑顔で話されているのを見て、お客様のメンタル面でも癒し効果があるということを実感しました」(同)

 三大都市圏の生物多様性シミュレーションを行った結果、2010年には多様性統合指数が1980年に比べ90%以下まで落ち込んでいたが、積水ハウスが取り組んできた『5本の樹』によって95%近くまで回復させることがわかった。

 しかし、積水ハウス一社では限界がある。八木氏は、次のように提言する。

「弊社だけでも大きな効果を出すことができましたが、それでも限界があります。もし、我々を含めて新築住宅の3割で同じ取り組みを行った場合、さらに生物多様性を回復させることが可能になります。そのために、弊社が作成して効果を出している『庭木セレクトブック』を公開させていただき、業界全体で取り組んでいけるように働きかけていきます」

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(積水ハウスの「5本の樹」計画サイトより)

 WWF(世界自然保護基金)は、地球環境の現状を報告する『Living Planet Report』で、世界の生物多様性が、過去50年で68%喪失していることを指摘している。

 2020年をベースラインとして、2030年までに総体でポジティブ(プラス)になること、2050年までに十分に回復させることを目標とした、“ネイチャーポジティブ”という概念が、世界で注目されている。

 積水ハウスは、まさにネイチャーポジティブの実現を向けて、地道に、そして確実に生物多様性の回復に取り組んでいる。

(構成=鈴木領一/コンサルタント)

※参考:WWF「過去50年で生物多様性は68%減少 地球の生命の未来を決める2020年からの行動変革」

鈴木領一/コンサルタント

鈴木領一/コンサルタント

 思考力研究所所長。行政機関や上場企業の事業アドバイスをはじめ目標達成のためのコーチングも行っている。プレジデント誌などビジネスメディアへの記事寄稿多数。また100の結果を引き寄せる1%アクション(サイゾー刊)は、氏のコーチングメソッドを初公開した書籍で、主婦から経営者まで幅広い層に支持されロングセラーとなっている。また、出版プロデュースの活動も行い、代表作には小保方晴子氏の『あの日』(講談社刊)がある。

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